Professional インタビュー Vol.4【フジタ動物病院院長 獣医学博士 藤田桂一先生】
hottoの記事を監修していただいている動物のプロフェッショナルに専門領域でのご経験や方針、また今後の展望などを伺うシリーズProfessionalインタビュー。今回は、日本における動物歯科・口腔内疾患治療の第一人者として知られるフジタ動物病院院長の藤田桂一先生にお話を伺いました。
- 更新日:
日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)大学院 獣医学研究科 修士課程 修了。
1988年に埼玉県上尾市でフジタ動物病院を開院する。
同病院の院長として、獣医師15名、AHT・トリマー・受付31名、総勢46名のスタッフとともに活躍している。
【資格】
◇獣医師
【所属】
◆日本小動物歯科研究会 会長
◆公益社団法人 日本獣医学会 評議員
◆財団法人 動物臨床医学会 理事
◆公益財団法人 動物臨床医学研究所 評議員
◆日本獣医療倫理研究会(JAMLAS) 理事
◆NPO法人 高齢者のペット飼育支援獣医師ネットワーク 理事
◆日本獣医臨床病理学会 評議員
◆社団法人 日本動物病院福祉協会
◆世界動物病院協会
◆日本動物病院会
◆小動物臨床研究会さくら会
◆PCM 研究会
その他の会に所属し、研究活動を精力的に行っている。
◇岩手大学 農学部獣医学科 非常勤講師(2008~2012年)
◇帝京科学大学 生命環境学部 アニマルサイエンス学科 非常勤講師(2012年~)
◇日本大学 生物資源科学部 獣医学科 高度臨床獣医学 非常勤講師(2013年~)
【編著】
「基礎から学ぶ小動物の歯科診療 Vol.1」interzoo
「基礎から学ぶ小動物の歯科診療 Vol.2」interzoo
【創業33年】計40人超のスタッフが高度なチーム医療を提供
フジタ動物病院(埼玉県上尾市)
―1988年の開業以来、30年以上にわたって埼玉県上尾市で動物医療に携わってこられました。現在は、5階建ての病院で、獣医師14名を含む総勢40名超のスタッフが診療にあたっています。動物病院としては、かなり規模が大きいですね。
藤田:開業当初は、今の病院の近くのビルの1Fに20坪ほどのテナントを借りていて、スタッフも私と妻の2名だけでした。
規模も小さいですし、まだ私も若かったので、飼い主さんから「こんな若造で大丈夫かな…」と不安そうな目で見られたこともありましたね(笑)。
でも、一人ひとりの飼い主さんと真摯に向き合いながら診療を続けたところ、少しずつ口コミで病院の存在が知られるようになり、来院数が増えました。
スタッフも増えて手狭になったため、1997年に現在の病院を建てて移転。
その後、段階的に手術室や歯科治療室、CT室を整備し、より高度で専門的な診断・治療を提供できる体制を整えました。
病院2階にある受付【フジタ動物病院】
手術室
最先端の機器を備えたCT室
また、2007年には病院の向かいの建物に「フジタ動物病院グルーミングガーデン」をオープン、治療中の動物の食事生活指導やグルーミングを専門的に行っています。
開院から30年以上経って規模は大きくなりましたが、決して今が完成形ではありません。
まだまだ成長途中であり、より高度かつ動物と飼い主さんの心に寄り添った診療を提供できるように、日々挑戦を続けているところです。
病院と道路を挟んで向かい側にあるグルーミングガーデン【フジタ動物病院院長】
基礎疾患のある動物のトリミングも行う
バラエティ豊かな療法食が揃う
藤田先生が監修したデンタルケアアイテムも
―藤田先生といえば動物の歯科や口腔内疾患治療のエキスパートとして知られていますが、専門的に取り組むようになったきっかけは何だったのですか?
藤田桂一先生【フジタ動物病院院長】
藤田:開院して間もないころ、当時私が行っていた歯科治療について、妻に「やり方がおかしい、それでは歯垢が十分に除去できていない」と指摘されたことがきっかけです。
獣医臨床の中で、当時としては、ごく普通の治療法だったのですが、結婚するまで歯科衛生士をしていた妻の目には、不完全な方法に映ったようです。
そう言われてみると、たしかに大学でも動物の歯科学について授業や実習などはなく、各病院で先生方が手探りで治療やケアにあたっている状況でした。
奥様の一言がきっかけで動物歯科治療を模索
そこで、海外から文献を取り寄せたり、海外からの獣医歯科専門医の先生のセミナーを聞いたりして動物の口腔歯科を学んで臨床で実践、その成果を論文にまとめて学会で報告するようになりました。
すると、「専門的に研究してみないか」と声をかけていただき、日本大学大学院獣医学研究科の研究生となりました。
病院での診療と研究の両立は大変きつかったですが、なんとか2000年に博士号を取得することができました。
当時はまだ動物の歯科を専門とする獣医師は珍しかったので、獣医師や動物看護師向けのセミナーの講師として動物の歯科に関する講演も依頼され、多くのメディアでも取り上げていただき、書籍や記事を執筆する機会も増えました。
すると、それらを見た飼い主さんが遠方からも来院されるようになり、「専門的な歯科診療が受けられる動物病院」として広く認知していただくようになったのです。
―歯科診療は、通常、どのような流れで行われるのでしょうか?
治療の基本は傾聴。飼い主さん一人ひとりに真摯に向き合う【フジタ動物病院院長】
藤田:まず、お口の中を診察して、歯肉の状態や歯石・歯垢の付着の程度を確認し、処置が必要と判断した場合は、術前検査を行います。
動物の歯科治療では全身麻酔下での処置が基本となるので、それに耐えられるかどうかを確認するために、血液検査、X線検査、あるいは、超音波検査などで健康状態を確認するのです。
検査の結果、問題がなければ、改めて予約を取っていただき、全身麻酔下での処置に進みます。
―歯科ではどのような症状で来院するケースが多いですか?
歯周病は、治療が遅れると抜歯もやむを得ない
藤田:やはり、歯周病が最も多いですね。
近年は室内で動物を飼うのが一般的になって、動物との距離が近くなり、口臭に気づきやすくなっていることもあって、以前より歯周病の受診は増加傾向にあります。
ただ、口臭に気づいて来院されるころには、かなり症状が進んでいて、抜歯せざるをえないケースも少なくありません。
また、歯周病が進行して上あごの骨が溶けて目の下の皮膚から化膿液が出たり、鼻の孔と口が貫通してしまい、くしゃみ、鼻水、鼻血が出たり、下あごの骨が溶けて下あごの骨折を引き起こすことなども少なくありません。
さらに、歯周病菌が血液を介して臓器に運ばれ、重篤な疾患の原因となってしまうおそれもあり、実際にそれを証明する論文も発表されています。
毎日のデンタルケアを習慣にして歯周病を予防することはもちろん、症状に気づいたら一日も早く診療を受けさせることが大切です。
―在籍している獣医師の皆さんが歯科専門なのですか?
獣医師、スタッフがチームとなって最適な医療を提供【フジタ動物病院】
藤田:いいえ、全員が歯科専門ではありません。
というのも、当院で診療する動物のうち、歯科を含む口腔内疾患は1~2割ほどで、残り8~9割はその他の疾患だからです。
歯科だけでなく、幅広い疾患に対応するために、当院では在籍する14名の獣医師がそれぞれの得意分野、専門分野を生かした治療を行っています。
また、毎朝、獣医師を含むスタッフ全員でミーティングを行って情報共有を徹底、常に飼い主さんと動物の立場で考え、インフォームド・コンセント(獣医師が十分に説明し、患者側が納得した上で同意し、治療を受けること)を大切に、質の高い医療の提供を心がけています。
独自の「クレド」を実践し、飼い主さんの心に寄り添う
獣医師が生き生きと働ける環境を整備【フジタ動物病院】
―獣医師、スタッフともに長く在籍している方が多いそうですね。
藤田:はい、10年以上在籍している者も少なくありません。
開院当初は獣医師、スタッフ共に長く定着しないことが悩みだったのですが、その原因が私自身や職場環境にあることに気づいて反省し、少しずつ時間をかけて皆が働きやすい職場環境や就労条件の整備に力を入れてきました。
その結果、獣医師らのモチベーションが向上、より充実した医療を提供することができるようになり、結果として長く通ってくださる飼い主さんも増えました。
また、獣医師・スタッフの中からも、病院をより良くしようという自発的な動きが生まれ、病院内にさまざまな「委員会」を作って自主的に活動しています。
中には、歯周病の概要やその予防法を教える歯科教室など、飼い主さん向けのセミナーを開催する委員会もあり、飼い主さんと病院との新たな接点を生み出してくれました。
―素晴らしいですね。何が原動力になっているのでしょうか?
藤田:「より良い医療を提供したい」という願いだと思います。
本来、動物医療に携わる者は誰もがこの願いを持っているはずですが、忙しい日々の業務に追われ、それを見失ってしまいがちです。
そこで当院では、目指すべき動物医療についての理念を「クレド」として明文化、印刷して持ち歩くなどして常に目に触れるようにし、初心を忘れないように心がけています。
■フジタ動物病院のクレド
1 心と心のふれあいを大切にします。
2 飼い主さんから感謝される医療を目指し私たちもお役に立てることに感謝します。
3 飼い主さんと動物との生活の質が向上するための良きアドバイザーとして努力します。
獣医師やスタッフ、飼い主さんの声を集めるクレドBOX【フジタ動物病院】
また、院長としての私自身の原動力は「病院を成長させ続けること」です。
30数年前に念願がかなって動物病院の経営者となったとき、脳裏に浮かんだのは同じく経営者だった父の姿でした。
父は埼玉で建築会社を興して順調に業績を伸ばしていたのですが、私が高校生のころ、景気悪化のあおりを受けて倒産し、多額の借金を抱えてしまいました。
すると、それまでは父を「社長」と呼んで親しんでいた人たちの態度が豹変、債権者に罵(ののし)られながら頭を下げる父の姿を見て「事業の失敗は、周囲の人に迷惑をかけ、多くの人を不幸にしてしまうのだ」と実感しました。
その経験から、私は経営者となったからには、ぜったいに事業で失敗をしないと心に誓ったのです。
動物病院の経営は、獣医師やスタッフ、飼い主さんはもちろんのこと、地域の皆さんやお取引先の業者の皆さんなど、非常に多くの人に支えられています。
皆さまにご恩返しをするためにも、今後も常に研鑽を怠らず、健全な病院経営を続けていきたいと考えています。
―今後の目標を教えてください。
信頼され、愛される病院を目指して【フジタ動物病院院長】
引き続き当院のモットーである「心と心の触れ合いを大切に」の思いを胸にクレドを実践し、飼い主の皆様に心から信頼していただける存在となれるよう、努力を続けていきます。
目下の課題は、待ち時間の短縮です。
おかげさまで、多くの方にご来院いただいており、曜日や時間帯によっては長時間お待たせしてしまうケースが珍しくありません。
少しでも待ち時間を短くするためにクレジットカード決済やWeb受付のアプリを導入して受付の利便性向上を図っていますが、まだ十分ではないので、引き続き、問題解決に向けて努力を続けてまいります。
動物の長寿化や動物を取り巻く環境の変化に伴い、動物病院に求められるニーズはますます多様化しています。
今後も飼い主の皆様や地域の皆様の声に真摯に耳を傾けてより良い医療とサービスを提供することによって、”皆様に必要とされ、愛される病院であり続けたい”と願っております。
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