Professional インタビュー Vol.3【スタディ・ドッグ・スクール代表 鹿野正顕先生】
hottoの記事を監修していただいている動物のプロフェッショナルに専門領域でのご経験や方針、また今後の展望などを伺うシリーズProfessional インタビュー第3回は動物行動学に基づいたドッグトレーニングの第一人者として知られる、「スタディ・ドッグ・スクール」代表であり学術博士の鹿野正顕先生にお話を伺いました。
- 更新日:
麻布大学介在動物学研究室(旧動物人間関係学研究室)で、人と犬の関係学を研究。
この分野では日本で初めての博士号を取得。
動物行動学に基づいたドッグトレーニングを提供~人と犬が幸せに共生できる社会の実現を目指して
― 鹿野先生は日本で初めて人と犬の関係性に関する分野の研究で博士号を取得されたと伺っています。 犬に関わる道に進もうと思ったきっかけは何だったのですか?
鹿野:子どものころから犬が大好きだったので、漠然と犬や動物に関わる仕事ができたらいいなと思っていたのですが、明確に「犬について学びたい」「犬を幸せにしたい」と思ったのは、小学生時代に経験した”衝撃的な出来事”がきっかけでした。
当時の日本では犬を外で飼うのが当たり前。
犬を大切に飼うという意識が低く、人間の食事の残り物を餌として与え、犬が病気になっても治療も受けさせない家庭がほとんどでした。
私の家もその例にもれず、両親はどの犬も庭で飼っていましたし、予防接種や避妊手術も受けさせていませんでした。
そんな飼い方に違和感を覚えていたものの、子どもの私にはどうすることもできず、ただ毎日散歩に連れて行って可愛がってあげることしかできませんでした。
そんなある日、その犬が突然子犬を産みました。
どうやら、庭に侵入してきた野良犬と交配してしまったようなのです。
生まれた子犬は1頭だったので、父に「ぜひうちで飼いたい」と頼んだのですが、父は許してくれず、代わりに「里親を探してやる」と約束してくれました。
それでいったんは安心したのですが、翌朝起きてみると、もうその子犬はいなくなっていました。
なんと、父は私が寝ている間に子犬を山に捨ててきてしまったというのです。
生まれたばかりで自力では生きていけないような子犬を置き去りにするなんて…。
もう、頭の中が真っ白になってしまうほどの大ショックで、しばらくの間、立ち直れませんでした。
この”つらい経験”がきっかけで、「犬が幸せに暮らせるようサポートできる仕事がしたい」「犬と家族のように暮らせる社会をつくりたい」と思うようになり、獣医学部への入学を目指しました。
― 進学先の麻布大学ではどのようなことを学んだのですか?
鹿野:私が入学した動物応用科学科は、もともと畜産学科だったので、講義は畜産動物に関わる内容がメインでした。
それはそれで面白かったのですが、犬のことを学ぼうと意気込んで入学したものの犬に特化した学びの機会が得られず、かといって自分一人では何をしてよいのかもわからなかった私は、ただ漠然と日々を過ごしていました。
状況が変わったのは、3年生の時です。
ちょうどその年に、日本に入ってきたばかりの「人と動物の関係学」を確立するために、恩師の教授が麻布大学に着任してきたのです。
この教授の研究室に一期生として入れたことで、私は夢に向かってやっとスタートを切ることができました。
研究室では犬、イルカ、馬の3チームに分かれてそれぞれの動物について適正な飼育方法を学び、アニマルセラピーや人とのかかわり方についての研究を進めました。
私は犬チームのリーダーになり、念願だった「犬の研究」に熱中しました。
研究のテーマは「人と犬が共生する社会の実現」です。
人と犬がより良い関係を築けるように、まずは犬の問題行動の原因を科学的に学び、それに基づいたしつけやトレーニング法なども実践で身に付けていきました。
大学卒業後は大学院の博士課程に進んで研究を続け、人と犬の関係学で”博士号”を取得。
終了後は研究室の仲間と一緒に大学内ベンチャー企業として株式会社アニマルライフ・ソリューションズを起業、動物行動学にもとづいた犬のしつけ方教室「スタディ・ドッグ・スクール」をスタートしました。
現在のスタディ・ドッグ・スクール(相模原市)
― 学術的に裏付けられたドッグトレーニングは、当時かなり画期的だったのではないでしょうか?
鹿野:そうだと思います。
もちろん当時もしつけ教室はたくさんありましたが、多くは「犬を力で支配したり」「服従させたりするトレーニング」「個々のトレーナーさんの経験や価値観にもとづいた断片的なトレーニング」が行われているところがほとんどでしたから…。
また、これは今でもそうですが、例えば「飼い主のことを犬が下に見ているから、言うことを聞かない」といった、動物行動学の観点からはありえない説が、さも正解であるかのように教えられていることも珍しくありませんでした。
― 飼い主さんの反応はいかがでしたか?
鹿野:起業当初は大学内で教室を開催していたこともあって、あまり認知度が上がらず、ビジネスとしては上手くいっていませんでした。
月給が数万円という時期もあったくらいです(笑)。
それでも、少しずつ口コミで評判が広がり、教室を学外の今の場所(相模原市)に移してからは、本当にたくさんの飼い主さんが通ってくれるようになりました。
問題行動に悩んでトレーニングを受けに来た飼い主さんに、動物行動学に基づいて問題行動の原因をご説明すると「これまで通っていた教室で受けた説明と全然違う」と驚かれたり、「原因に納得できたから、トレーニングのモチベーションが上がる」などと言っていただけることが多いですね。
また、最近では特に問題行動がなくても、「愛犬とより深くコミュニケーションを取りたいから」「愛犬と一緒に、いろんな場所に出かけて楽しい時間を過ごしたいから」という理由でトレーニングを始める方が増えています。
また、併設している登園型の「犬の幼稚園」では、「留守番をさせるのがかわいそうだから」という理由だけでなく、「愛犬に社会性を持たせて、家族以外の人や他の犬と穏やかに過ごせるようにしてあげたい」という理由で利用される方も多いですね。
― しつけ教室では、具体的にどんなレッスンが行われるのでしょうか?
鹿野:愛犬と飼い主さんが一緒に参加する「グループレッスン」や「マンツーマンのレッスン」などさまざまなメニューがあり、飼い主さんのご希望や愛犬の状態に最も適したレッスンをご提案して、受講していただくことにしています。
トレーニングの様子
たとえば愛犬に問題行動がある場合は、私をはじめ獣医大学で博士号を取得した動物行動学の専門家が愛犬の行動を分析、悩みの解決に向けてトレーニング方法をご提案し、”マンツーマンの個別レッスン”で問題改善に導きます。
いずれのレッスンも「人が犬を学び、犬が人社会のルールを学ぶ」がコンセプト。
決して犬を服従させたり、人間の思い通りに動かすことを目的としたトレーニングではなく、犬と人が共生するためのトレーニングを提供しています。
トレーニングの様子
― 犬と人との共生。まさに、先生が子供時代に描いた夢の実現に近づいていますね。
鹿野:いえいえ、まだスタート地点に立ったばかりです。
たしかに私たちの提供する動物行動学に基づいたトレーニングは多くの飼い主さんに受け入れられて、ご評価いただいていますが、このトレーニングができる人材に限りがあるため、全国に広く普及させるまでには至っていません。
そこで、最近はしつけ教室事業のほかに「専門学校での教育事業」「ペットドッグトレーナー育成コース事業」を展開し、専門家の育成にも力を注いでいます。
「ペットドッグトレーナー育成コース」では動物行動学をはじめ脳科学や生理学など動物に関わるさまざまな分野の専門家が講義を担当、また「スタディ・ドッグ・スクール」での実習を通じて実際のトレーニング技術を身に付けることができるカリキュラムとなっています。
セミナールーム
また、「正しいしつけ」や「トレーニングのあり方」をより多くの方に知ってもらうために、イベントや外部セミナーに講師として登壇したり、メディアのインタビューを受けたり…と積極的な情報発信も心がけています。
「犬にウケる飼い方」(ワニブックス、2021年刊)などの著書の出版も、その一環です。
― 今後の目標を教えてください。
鹿野:引き続き「教室事業」と「人材育成事業」を継続・発展させていくことが、当面の目標です。
まだまだ課題は山積みですが、とにかくできることに全力で取り組み、子どものころからの夢である「犬と人が幸せに共生できる社会の実現」に向かって、一歩ずつ前進していきたいと思っています。
【鹿野先生の監修】犬のしつけ記事一覧はこちら
↓ ↓ ↓
みんなのコメント
編集部のおすすめ記事
- 【獣医師監修】犬がおからを食べても大丈夫?ダイエットになる?カロリーや尿石症に注意!
- 豆腐を作るときに出る、大豆のしぼりかす、おから。定番の煮物の他、おからハンバーグやおからクッキーなど、ダイエットに使われることもありま...
- 【獣医師監修】犬の顎骨骨折(がくこつこっせつ)(上・下顎)自然治癒する?原因や症状、治療費、予防法!
- 犬の顎骨骨折(がくこつこっせつ)、意外にも歯周病に起因して顎(上顎・下顎)を骨折することもあるのです。たかが歯などと思ってはいけません...
- 【獣医師監修】犬におやつは必要?子犬や老犬にはいらない?おやつの活用方法や注意点を解説!
- 犬にはおやつは必要か?不要か?を迷う飼い主さんもいるでしょう。トレーニングでおやつは上手に活用できるケースもあります。子犬、成犬、老犬...
あなたも一言どうぞ
コメントする