【犬と防災】災害時の愛犬との避難所生活や心構え、防災グッズ【チェックリスト付き】

災害大国・日本では、エリアや時期を問わず、誰でも地震、台風、豪雨といった自然災害の被害を受ける可能性があります。今回は、2016年の熊本地震を経験し、災害時のペットと飼い主さんのサポートにも詳しい動物看護師の増子元美さんに、愛犬の安全を守るために必要な心構えと防災グッズについてお話を伺いました。

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【犬と防災】災害時の愛犬との避難所生活や心構え、防災グッズ【チェックリスト付き】
出典 : noskaphoto / PIXTA(ピクスタ)

【熊本地震】愛犬と飼い主さんたちが直面した現実は?

【熊本地震発生時】倒壊家屋と愛犬

【熊本地震発生時】被災地で撮影された犬の様子

―増子さんご自身も2016年の熊本地震を経験されました。地震発生直後はどのような状態だったのですか?

増子元美さん(以下、増子):熊本はこれまで地震が比較的少ない地域でしたので、ほとんどの人が何の対策もしないままに地震の被災者になってしまったというのが、実情だったと思います。

特に4月14日の前震(マグニチュード6.5)は夜間に発生したため、暗くて状況がよくわからないまま、とりあえず着の身着のまま外に逃げ出して、近くの避難所や車の中で夜明けを待った方が多かったようです。

その28時間後の16日未明には本震(マグニチュード7.3)が発生、さらに大きな被害をもたらしました。

熊本は台風被害がよくあるので、風に飛ばされにくい重い瓦屋根の家や防風目的のブロック塀で囲まれている家が多いのですが、こういった家屋は台風には強くても地震の揺れには弱く、家屋倒壊の被害が多く見られました。

つまり、家に住み続けられることができなくなった人がたくさん出てしまったのです。

【熊本地震発生時】テント生活

【熊本地震発生時】テント生活を余儀なくされた犬も

私も本震の震源地・熊本市内に住んでいましたが、幸い、自宅や家族、愛犬への被害はほとんどありませんでしたので、翌日には運営している「わんにゃん緊急災害ネットワーク熊本」のFacebookページ で被災地の状況やペット用支援物資の募集などについて情報発信を開始、同時に被災したペットや飼い主さんへの支援も始めました。

現在は熊本地震で亡くなられた方々や動物たちへの追悼の想いを胸に 動物看護師として 防災の大切さを伝えさせていただく活動に取り組んでいます。

【熊本地震発生時】救助物資

【熊本地震発生時】全国から寄せられた支援物資をシェア

―被災した飼い主さんや犬たちはどのように過ごしていましたか?

【増子】:自宅に被害があって住めなくなった飼い主さん、余震への不安で家で眠ることができない飼い主さんは、避難所か車の中での生活が続きました。

ただし、一部にはペットの同伴ができない避難所もありましたし、同伴できる場合も「鳴き声や臭いが周囲の皆さんの迷惑になるから」と、あえて愛犬と一緒に車やテントで寝泊まりする方もいらっしゃいました。

地震による停電が長引いているエリアでは、夜は本当に真っ暗で、その暗さに不安を覚える飼い主さんも多かったですね。

【熊本地震発生時】愛犬の車中泊の様子

【熊本地震発生時】車中泊する犬たち。どうしても臭いがこもりがちに

もう1つ、被災者の皆さんの悩みの種になったのが「臭い」です。

震災後しばらくは市のゴミ収集機能が復旧しなかったので、ゴミの処理が普段どおりにできませんでした。

特に愛犬と車中泊している人の中には、使用済みトイレシーツや排泄物の処理に困って、仕方なく車内に溜め込むことになり、ひどい悪臭に悩まされたケースも。

ちょうど暑い時期でしたので、車中にいるときは熱中症対策で常時エアコンを稼働させておかねばならず、ガソリン代が負担になったという声も聞かれました。

また、車中泊では足を伸ばして眠れないこともあって、エコノミークラス症候群のような症状が出た飼い主さんもいらっしゃいました。

【熊本地震発生時】避難所に設けられた臨時ドッグラン

【熊本地震発生時】避難生活での運動不足解消のため、避難所に設けられた臨時ドッグラン

愛犬たちも避難所や車内にばかりいると運動不足になってストレスが溜まってしまうので、ボランティアのみなさんと力を合わせて簡易ドッグランを作り、少しでも愛犬が体を動かせるように工夫しました。

なお、熊本地震におけるペットの被災概況については、環境省の報告書で詳しく紹介されていますので参考にしてください。

【参考文献】環境省「熊本地震におけるペットの被災状況」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h3003/01.pdf

「行政に助けてもらおう」ではなく、まずは【自分の身は自分で守る】意識を!

災害時の犬たち

iStock.com/Goxy89

―フードやトイレシーツなどペット関連の支援物資はすぐに手に入ったのでしょうか?

【増子】:熊本だけでなく、どの被災地でも、当然ながら人間の安全確保が最優先ですから、すべての避難所で災害発生直後からペット関連の物資が充実しているわけではありません。

水や食料などの支援物資も避難所によって届くタイミングや量にばらつきがあり、すぐに届いたところもあれば、なかなか届かなかったところ、届いても量が不十分だったところもありました。

「支援物資がもらえるから大丈夫」と思い込まず、愛犬の食料と水は必ず備蓄しておくようにしてください。

一般的には公的な支援物資が届くまで72時間かかるといわれていますので、少なくとも、72時間は公的支援がなくても愛犬の命を守れるよう、基本的なペット用防災グッズは飼い主さん自らが備えておくべきです。

避難先で投薬する犬

iStock.com/cerro_photography

投薬治療中や持病のある犬の場合は、避難先で治療を受けたり薬を入手できたりするとは限りませんので、かならず自分で準備しておきましょう。

また、物資がすぐに手に入ったとしても、生活インフラの復旧にはかなりの時間を要します。

熊本地震でも水道や電気の復旧に1週間以上、ガスの復旧には2週間以上かかった地域があります。

電気も水道もない状況で、自分と家族、そして愛犬の命を守るにはどうすればいいのかを普段から考え、物心両面で備えておきましょう。

防災対策には公助(公的な支援)や共助(助け合い)の前に、まずは自助(自分での備え)が、欠かせないのです。

―自助意識がない飼い主さんには、具体的にどんなリスクがあるのでしょうか?

普段からコミュニケーションをとる犬たち

iStock.com/yanjf

【増子】自助ができていないと、公助や共助が受けられるまでの間、愛犬の健康や命を守ることができない可能性があります。

それどころか、場合によっては自助ができていないために、公助や共助を活用できないことさえあります。

例えば、せっかくペット同伴OKの避難所に行っても飼い主さんがノミ・マダニ予防を怠っていたために避難所に入れなかったり、こまめにシャンプーをしていないために愛犬の臭いが原因で周囲の人とトラブルになってしまったりすることも考えられます。

普段から近所の飼い主さんとコミュニケーションをとるように心がけていれば、災害時に犬を預け合ったり、ペット関連の情報共有をしたりと、「共助」の輪に入ることができますが、普段の近所付き合いがまったくない場合は、孤立して一人で悩みや不安を抱え込んでしまうことにもなりかねません。

【熊本地震発生時】ボランティア獣医師による診察

【熊本地震発生時】ボランティアの獣医師による診察も行われた

被災生活は、普段の生活の延長にあることをしっかり認識し、普段から災害に備えるよう心がけましょう。

【できないこと】【足りないもの】を把握しよう!

―普段の生活では、具体的にどんな準備をすればよいのでしょうか?

【増子】:災害時の状況を心のなかでシミュレーションし、自分と愛犬の生活を守るために何が必要なのかを考えましょう。

フードや水、リードやケージ、トイレシートなど必要な「物資」だけでなく、衛生面・行動面・管理面でも公助・共助を受けるのに必要な条件をクリアしているかどうかを確認することが大切です。

ここでは私が主宰している「わんにゃんぴっ相談室」で提案しているチェックリストの一部をご紹介しますので、参考にしてみてください。

チェックリスト

bee / PIXTA(ピクスタ)

チェックリストを確認すると、「できていないこと」「足りないもの」が把握できるはずなので、それを解消するためのアクションを起こしましょう。

たとえば、ITが苦手な人の場合、下記<管理面>リストの一番下にある「サイトの確認」は難しいかもしれませんが、ITが得意な家族や友人に協力を頼んでおくことはできるはずですよね。

「できる範囲で、できることをやっておく」、これが自助の基本です。

また、私は自分自身の経験を踏まえ、基本的な防災対策や防災グッズに加え、被災生活を乗り切るには「あかり」「かおり」「ぬくもり」の3つが必要だとお伝えしています。

「あかり」

あかり

Graphs / PIXTA(ピクスタ)

停電による暗闇は人にとっても犬にとっても不安なもの。懐中電灯や電気ランタンなど火を使わない明かりの準備をしておきましょう。

「かおり」

かおり

Graphs / PIXTA(ピクスタ)

掃除や洗濯、ごみ処理ができず、避難所や車中に悪臭がこもってストレスの原因に。消臭剤や消毒剤を防災グッズに加えておきましょう。

「ぬくもり」

ぬくもり

CORA / PIXTA(ピクスタ)

被災生活では温かな食事や飲み物、温かなお湯での入浴はなによりのもの。簡単に温められるタイプの非常食を用意しておきましょう。また、ぬくもりのある交流も欠かせません。大変なときこそ温かな言葉や優しい心遣いを大切にしたいものです。

なお、当たり前のことですが、災害時に愛犬が無事でいるためには、飼い主さんが無事でいることが大前提です。

飼い主さんが自分の心身を守ることが、犬たちの安全確保に繋がります。先程も述べたとおり、被災生活も結局は普段の生活の延長線上にあるものですから、普段の生活を整えることが災害への備えになるのです。

この機会に飼い主さん自身も自分の生活スタイルや生活環境を見直し、防災への備えの第1歩としてはいかがでしょうか。

【防災チェックリスト】愛犬を守るために!

【防災チェックリスト】愛犬を守るために!

iStock.com/uuoott

<衛生面>

狂犬病予防接種は済ませたか?(済票を準備)
ノミ・マダニ予防は済ませたか?
伝染性ワクチン接種は済ませたか?(証明書コピーを準備)
感染する疫病(耳ダニ、真菌症など)に罹っていないか?
被毛・皮膚は清潔か?

<犬の行動面>

避妊・去勢は済んでいるか?
吠えないか?
他の犬と喧嘩しないか?
人(犬)見知りしないか?
怖がりか?

<管理面>

マイクロチップは装着しているか?
迷子札はつけているか?
ペットの避難情報に関するサイト等は確認済みか?

【防災用品】※防災用品は、すぐに持ち出せるよう一か所にまとめておきましょう!

防災用品

TATSU / PIXTA(ピクスタ)

1.命や健康に関わるもの

フード、おやつ、水(食べ慣れているもの。賞味期限に注意。5日分以上)
療法食、薬(5日分以上)
予備の首輪、胴輪、リード(伸びないもの)
食器
食品用ラップフィルム(応急手当など多目的に使用可能)
ガムテープ
犬用の靴下、靴(避難時のケガ防止に)
ペット用救急セット(包帯、ガーゼ、消毒液など)
携帯用ランプや懐中電灯

2.ペット用品

ケージ・クレート・抑留鎖
ブルーシート・ペット用の敷物
排泄物の処理用品(シャベル、臭いが漏れにくいビニール袋、マナーポーチなど)
トイレ用品
タオル、ブラシ
おもちゃ
移動用のキャリーバッグやケージ、カート
防寒・防暑グッズ
臭い対策グッズ(除菌・消臭・消毒剤など)

3.飼い主や愛犬の情報

飼い主の連絡先が明記してあるもの(迷子札など)
愛犬の写真(飼い主と一緒に写っているものがあれば、迷子になった愛犬の身元確認がスムーズに)
ワクチンの接種状況がわかるもの
既往症や健康状態がわかるもの
かかりつけの動物病院がわかるもの
愛犬と飼い主

Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

チェックリストは一例です。飼い主さん一人ひとりが生活スタイルや愛犬の状況に応じてチェック項目を作成しましょう。

環境省「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」でも、防災対策や防災グッズについてわかりやすく紹介されていますので、参考にしてください。

【参考情報】環境省「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2506/02.pdf

⬛取材協力:増子 元美さん

増子 元美さん

動物看護師、わんにゃんぴっ相談室/ACT-熊本の動物愛護を考える会代表。
東日本大震災、熊本地震の被災地で動物看護師として災害時のペットの健康や飼い主の悩み支援に従事。
熊本市在住。

【わんにゃんぴっ相談室】:
https://petsoudan.wixsite.com/wannyanp?fbclid=IwAR3qGZucDsGaHdEtmbZQUUyp--X1UDvN2wFnd3yT8493AUDC_4J2ENvNvek

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