【獣医師監修】「犬の前十字靭帯断裂」 原因や症状、なりやすい犬種、治療方法は?

犬の前十字靭帯断裂(ぜんじゅうじじんたいだんれつ)とは、後足の膝部分にある前十字靭帯が切れて、歩行に異常が現れる疾患です。犬の整形外科疾患において多く見られる疾患の一つで、原因の多くは、加齢や体重による靭帯の質の変化。発症リスクを抑えるための体重管理がとても重要になります。

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先生にお聞きしました
長坂 佳世 先生
D&C Physical Therapy 院長(獣医師)

麻布大学外科学第2研究室を卒業後、都内の動物病院で一般診療に携わる。

【経歴】
◇2006年:CHI Institute(フロリダ州)にて鍼治療認定資格(CVA)、マッサージ療法認定資格(CVT)取得。
◇2008年:ゼファー動物病院にて一般診療、リハビリテーション診療を担当。
◇2011年:テネシー大学公認、リハビリテーション認定資格(CCRP)取得。
◇2011年:ゼファー動物病院にてリハビリテーション専門診療を行う。
◇2013年:独立。日本初の犬と猫のリハビリテーションに特化した動物病院「D&C Physical Therapy(フィジカルセラピー)」を開院。

【資格】
獣医師

【所属】
一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
公益社団法人 東京都獣医師会
杉並区獣医師会
日本動物リハビリテーション学会 理事
日本動物理学療法研究会(JSAPT)

ペット雑誌からの取材記事、動物医療専門誌への寄稿多数。

現在、Mix 猫1匹と一緒に暮らす愛猫家。
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犬の前十字靭帯の働き

犬の前十字靭帯の働き

犬の膝関節の構造

靭帯(じんたい)とは、骨と骨をつなぐコラーゲンの繊維でできた結合組織の束のことです。

犬の後ろ足の膝関節には、大腿骨(だいたいこつ)と脛骨(けいこつ)を結ぶ「前十字靭帯」と「後十字靭帯」があり、クッションの役割をもつ2つの半月板の間を十字のようにクロスすることで、脛骨がねじれないように支えています。

脛骨が大腿骨よりも前にずれることがないよう制限したり、膝関節の過剰な伸展を防ぐのも「前十字靭帯」の役割です。

犬の前十字靭帯断裂の状態

犬の前十字靭帯断裂の状態

犬の前十字靭帯断裂のしくみ

前十字靭帯が損傷したり、切れたりした状態が「前十字靭帯断裂」です。

部分的に切れた場合を「部分断裂」、すべて切れた場合を「完全断裂」と呼びます。

前十字靭帯が損傷すると、体重をかけるたびに脛骨が前方にずれ、膝が不安定になり、歩行異常が現れます。

前十字靭帯が突然プチンと切れた時には、激しい痛みを伴うことがあります。そのうち痛みはなくなるものの歩行異常は残ります。

また、半月板を損傷した時にも強い痛みを伴います。

前十字靭帯の不完全断裂が長期にわたると、半月板の損傷を引き起こすことが多く、歩行障害や痛みが重度になる場合があります。

なお、前十字靭帯の長期的な部分断裂などで膝関節の内側が固くなっている場合もありますが、これは膝を安定させるために身体が靭帯機能をおぎなおうとする状態を示します。

原因

犬の前十字靭帯断裂【原因】

犬の前十字靭帯断裂【原因】

Valerie Nik/ Shutterstock.com

人間と異なり、犬の前十字靭帯断裂の原因は、外傷よりも変性※によるものが多く見られます。

変性が原因なので、左右両足発生することがしばしば。

片方が切れたら半年以内にもう片方と、両方切れるケースが多く見られます。

※変性とは、細胞内の代謝異常などによって、組織が固有の機能を失い量的・質的に変化することです。

靭帯の場合は、内部組織の細かい繊維が次第にほつれていくような変化をさします。

加齢

HappyLizard/ Shutterstock.com

変性の場合

加齢

細い繊維質の束である前十字靭帯は、経年に伴い1本1本切れていくため、ほとんどの高齢犬が、部分的な断裂(不完全断裂)を発症しています。

肥満

犬の膝は常に曲がった状態であるため、もともと前十字靭帯への負担が大きく、体重が重いとさらにその負担が増加します。

肥満により発症のリスクが高まるうえに治りも悪いので、太らせないことが非常に大切になります。

膝に負担のかかる関節疾患

膝蓋骨脱臼などによる膝への負担でも、前十字靭帯が損傷する原因になります。

外傷

alexei_tm/ Shutterstock.com

外傷の場合

交通事故、スポーツ競技などで過剰なジャンプや、急なターンなどを行うことで、非常に強い力が急激に膝関節にかかった場合、前十字靭帯の損傷につながります。

症状

犬の前十字靭帯断裂【症状】

犬の前十字靭帯断裂【症状】

Sonsedska Yuliia/ Shutterstock.com

犬の前十字靭帯断裂には、以下のような症状が見られます。

すぐ獣医師に診てもらいましょう。

患肢を最小限しか地面に着けない

前十字靭帯が切れても半月板が傷んでない場合は、最小限の着地はできるものの膝がしずむように前に傾きます。

切った時点では痛みを伴いますが、まもなく痛みが消える場合もあります。

患肢を上げたままで座る
患肢を上げたままケンケンで歩く

足を上げたままの状態は、半月板が傷んでいる可能性があります。

小型犬の場合はちょこちょこ速く歩くので、症状がわかりにくく、飼い主が気づかないうちに前十字靭帯が切れている場合があります。

発症しやすい犬種

犬の前十字靭帯断裂【発症しやすい犬種】

犬の前十字靭帯断裂【発症しやすい犬種】

OlgaOvcharenko/ Shutterstock.com

犬の前十字靭帯断裂は、すべての犬種に発症の可能性がありますが、大型犬で多く見られます。

小型犬では体重が軽いためあまり気づきませんが、ヨークシャーテリアで多く発生します。

これは、大型犬やヨークシャーテリアの膝の角度が急なことが多く、傾斜を支える前十字靭帯により負担がかかりやすいためです。

一方、グレーハウンドでは変性による前十字靭帯断裂はないと言われています。

また、中高年の避妊済みで肥満しているメス犬でも、前十字靭帯断裂を発症するケースが多いようです。

診断方法

犬の前十字靭帯断裂【診断方法】 

触診

iStock.com/JodiJacobson

触診

触診で膝の不安定性を確認します。

患肢の筋肉量が左右で差があれば長期的な疾患、関節の腫れや熱感があれば最近断裂を引き起こしたと診断します。

X線診断(レントゲン)

触診後、大腿骨と脛骨の位置関係を画像で確認します。

レントゲン上で脛骨の角度を計測することで外科手術などの治療に役立てます。

治療方法

犬の前十字靭帯断裂【治療方法】 

犬の前十字靭帯断裂【治療方法】 

makotomo / PIXTA(ピクスタ)

治療法としては、保存療法と外科療法があげられますが、選択の基準の一つになるのが「体重」。

体重が重い大型犬は外科治療が多く、軽い小型犬は膝への負担が少ないので、保存療法を選択することが多いです。

体重20kgを目安に、獣医師が個体の適性体重をふまえて治療法を判断していきます。

ただし、目安となる体重は、あくまでも標準体型での場合。

肥満した犬の体重は目安とはなりません。

肥満している場合、手術後の回復に影響するのでまずは減量が大切です。

いずれにしても症状や今後の生活などを総合的に判断する必要があります。

保存療法

Pavlina Trauskeova/ Shutterstock.com

保存療法

痛みの管理をしながら、安静や減量、制限運動を行い、膝関節の周囲組織の安定化させていきます。

膝周囲の安定化には半年~1年という長期の時間が必要です。

外科治療の場合は、麻酔のリスクをはじめ術後の安静期間、リハビリテーションやケア方法、費用などを、あらかじめ獣医師と相談したうえで行いましょう。

減量

肥満度を確認し、適正な体重にしていきます。

痛みの管理

消炎鎮痛剤の投与、レーザー療法などを行います。

運動制限

発症後しばらくは安静にします。

トイレなど日常的な行動はOKです。

制限運動

経過を見ながら犬を立たせる、平らな場所で歩行させるなど、膝に負担のかからない弱い運動をさせることで、筋力を維持しつつ膝関節の運動機能を回復させます。

環境整備

滑らない床にする、段差にスロープを付けるなど膝に負担がかからない環境を整えます。

外科治療

Jaromir Chalabala / PIXTA(ピクスタ)

外科治療

おもに大型犬の場合や半月板が損傷した場合など、手術による外科治療を行います。

手術法は以下のような方法があります。

関節外法

切れた靭帯の代わりになるナイロン糸を巻いて関節を補強する方法です。

脛骨高平部骨切術(TPLO)

脛骨の角度を適切な角度に変えるため、骨を切ってプレートで止める手術です。

予防・対策

犬の前十字靭帯断裂【予防対策】 

犬の前十字靭帯断裂【予防対策】 

damedeeso / PIXTA(ピクスタ)

常に脛骨を引っ張り、足を支えている前十字靭帯は、加齢によって変性していきます。

損傷や断裂の予防として以下のような対策をとって、膝関節や靭帯への負担が増えすぎないようにしましょう。

✔適正体重を常に維持する

✔滑りにくい床材に変える

✔足裏の毛や爪を定期的に切る

✔2本足でのジャンプや、急回転をさせない

犬の前十字靭帯断裂と間違えやすい病気 

犬の前十字靭帯断裂と間違えやすい病気 

Geoff Hardy/ Shutterstock.com

後足の歩様がおかしくなる状態は、以下の病気と間違えやすいです。

犬の膝蓋骨脱臼

犬の膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)とは、膝の皿と呼ばれている膝蓋骨が外れる病気です。

普段、膝蓋骨は大腿骨の滑車溝という溝を滑りスムーズに動きますが、溝が浅かったり、外傷を負ったりすると膝の内側もしくは外側に外れてしまいます。

痛みと腫れだけでなく、関節が動きにくくなります。

重症の場合には足が湾曲することもあります。

犬の変性性腰仙椎狭窄症

犬の変性性腰仙椎狭窄症(へんせいせいようせんついきょうさくしょう)とは、関節リウマチのように、免疫異常により関節に炎症が起きる病気です。

関節表面の軟骨などが破壊され、びらんが生じる「びらん性」と「非びらん性」があります。

6週間以上の関節のこわばりや痛み、倦怠感、発熱、食欲の低下が現れます。

犬の指間炎

Reddogs- stock.adobe.com

犬の指間炎

犬の指間炎(しかんえん)とは、指と指の間に炎症が起きる病気です。

外傷や火傷、皮膚病、ストレスなどが原因で、肉球の間が赤く腫れ、痛みや痒みが現れます。

犬が気にして噛んだり舐めたりすると細菌が繁殖して化膿し、悪化する恐れがあります。

犬の骨肉腫

犬の骨肉腫(こつにくしゅ)とは、骨に腫瘍ができる病気で、他臓器に転移しやすく死亡率の高い腫瘍です。

足の長い骨に発症することが多く、強い痛みのため、患肢を引きずったり、上げて歩くようになります。

肺に転移すると呼吸困難が起こります。

みんなのコメント

パリジェンヌさん
ヨークシャーテリアを飼っていますが、ペットショップの店員さんから注意するように言われた病気です。 これからも気をつけてあげたいと思います。

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