【内分泌科担当獣医師監修】犬の「低カルシウム血症」原因や症状、なりやすい犬種、治療方法は?

犬の低カルシウム血症(ていかるしうむけっしょう)とは、本来、副甲状腺ホルモンや活性型ビタミンD3によって厳密に制御され、一定に保たれている血液中のカルシウム濃度が、これらの機能の破綻によって低下している病態です。ここでは、低カルシウム血症の原因や症状、治療法について解説します。

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先生にお聞きしました
森 昭博先生
日本獣医生命科学大学 獣医保健看護学科
獣医保健看護学臨床部門准教授(獣医師)

【資格】
獣医師

日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)獣医学部獣医学科卒業。
2009年に日本獣医生命科学大学大学院で博士(獣医学)号を取得。
2012-2013年、イリノイ大学に留学。
現在、日本獣医生命科学大学付属動物医療センター内分泌化を担当。
犬および猫の内分泌分野を中心に診療、研究を行っている。
5歳のMix犬「ぽよ」と同居中。
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犬の【低カルシウム血症】とは

犬の低カルシウム血症

血液中のカルシウム濃度を制御し、管理する機構のどこかが破綻して、血中の総カルシウム値やイオン化カルシウム値が低下している病態を、「低カルシウム血症」と言います。

総カルシウム値がおおむね7.5mg/dLを下回っている場合、あるいはイオン化カルシウムがおおむね1.0mmol/L以下になっていると、低カルシウム血症と認識します。

犬の低カルシウム血症とは

David ODell/ Shutterstock.com

カルシウムが犬の体内で果たす役割

犬の体内にあるカルシウムの99%は、骨に蓄えられています。

カルシウムによって丈夫な骨がつくられ、カラダをしっかりと支えています。

残りの約1%は血液の中や細胞内にあります。

そして、この1%のカルシウムが、細胞間の情報伝達や神経刺激の伝達など、生命の維持や活動に重要な役割を果たしています。

血液中のカルシウム濃度の管理

犬の副甲状腺ホルモンの働き

犬の副甲状腺ホルモンの働き

血液中や細胞内のカルシウムの量は、副甲状腺ホルモンや活性型ビタミンD3によって厳密に管理されています。

副甲状腺ホルモンには、骨を刺激してカルシウムを放出させ、腎臓から尿中に排出されるカルシウムの量を減らし、腎臓でリンを排泄するなどの働きがあります。

また、ビタミンD3は、腎臓で活性化され(活性型ビタミンD3)、消化管でのカルシウムとリンの吸収量を増やす働きがあります。

犬の低カルシウム血症とは

Viktor Birkus/ Shutterstock.com

血液中のカルシウム濃度を一定に保つために、副甲状腺ホルモンや活性型ビタミンD3によるさまざまな管理機能が働きます。

また、カルシウムが不足する場合には、骨から血液中にカルシウムを移動して補います。

骨は、カラダを支えると同時に、血液中のカルシウム不足に備えてカルシウムを蓄えておく貯蔵庫の役割を担っています。

原因

犬の低カルシウム血症【原因】

犬の低カルシウム血症【原因】

Sergey Mikheev/ Shutterstock.com

犬の低カルシウム血症は病名ではなく、血中の総カルシウム値やイオン化カルシウム値が異常に低下しているという病態を示しています。

以下のような低カルシウム血症の原因となる基礎疾患があり、それが原因となって引き起こされます。

原因①【原発性上皮小体機能低下症】

きわめて稀(まれ)な疾患ですが、副甲状腺(「上皮小体(じょうひしょうたい)」とも呼びます)が果たすべき機能が働かないために、血中の総カルシウム値やイオン化カルシウム値が低下してしまいます。

原因②【栄養性二次性上皮症体機能亢進症】

カルシウムやビタミンDの摂取不足が原因で起こります。

原因③【慢性腎不全】

腎臓でつくられる活性型ビタミンD3が不足し、消化管からカルシウムとリンが吸収できなくなって、血中のカルシウム値が低下します。

このほか、高カルシウム血症の治療のために、副甲状腺(上皮小体)を切除した場合、術後にバランスを崩して低カルシウム血症を引き起こすことがあります。

症状

犬の低カルシウム血症【症状】

犬の低カルシウム血症【症状】

Fotyma/ Shutterstock.com

軽度の低カルシウム血症(血中総カルシウム値がおおむね7.5mg/dL以上)では、明らかな症状は現れません。

血中総カルシウム値が7.5mg/dL未満になると、神経や筋の興奮の異常が起こることで、以下のような症状が見られるようになります。

イライラしているように見える(神経過敏)
元気がなくなる
食欲がない
下痢・嘔吐

さらに症状が進むと以下のような症状が見られるようになります。

震えている
脱力
全身性の発作

この場合は緊急治療が必要になります。

発症しやすい犬種

犬の低カルシウム血症【発症しやすい犬種】

犬の低カルシウム血症【発症しやすい犬種】

shymar27/ Shutterstock.com

犬の低カルシウム血症は、すべての犬種に発症の可能性がありますが、原発性上皮小体機能低下症の場合は、若齢の成犬に起こりやすいと言われています。

好発犬種は、とくにありません。

診断方法

犬の低カルシウム血症【診断方法】

診断方法①【問診・身体検査】

診断方法①【問診・身体検査】

pearlinheart / PIXTA(ピクスタ)

飼い主に病歴などを問診し、臨床症状の確認を行います。

診断方法②【血液検査】

血中の総カルシウム値を測定します。

1回の測定で判断がつかない場合には、後日に再度測定することがあります。

また、カルシウム代謝と関係が深い、血中のリンの濃度も同時に測定します。

診断方法③【鑑別診断】

低カルシウム血症を引き起こす基礎疾患について鑑別診断を行い、その原因を特定します。

鑑別診断によって、考えられる基礎疾患やその他の原因を除外し、原発性上皮小体機能低下症が疑われる場合には、その診断のために、血中の副甲状腺ホルモン(PTH)を測定します。

治療方法

犬の低カルシウム血症【治療方法】

内科治療

内科治療

keechuan / PIXTA(ピクスタ)

活性型ビタミンD3製剤、カルシウム製剤の投与によって、血中の総カルシウム値を上昇させます。

補正するカルシウム値の目標は、8〜10mg/dLとすることが多いです。

予防・対策

犬の低カルシウム血症【予防対策】

犬の低カルシウム血症【予防対策】

ESB Professional/ Shutterstock.com

低カルシウム血症を予防する効果的な方法はありません。

血液検査を伴う定期的な健康診断によって、血中のカルシウム値を把握していくことが大切です。

犬の低カルシウム血症【間違えやすい病気】

犬の低カルシウム血症と間違えやすい病気

Africa Studio/ Shutterstock.com

発作を起こすことがある病気として、以下の病気が挙げられます。

犬の特発性てんかん

犬の特発性てんかん(とくはつせいてんかん)とは、けいれんや両手足の硬直などの「てんかん発作」を持つものの、その他には異常が認ほかられない病気です。

犬のてんかんの多くは特発性てんかんです。

愛犬のてんかん発作が5分以上続いたり、1日に何度も繰り返す場合は、処置が必要になります。

犬の脳腫瘍

犬の脳腫瘍(のうしゅよう)とは、脳に腫瘍ができる病気で、もともと脳に腫瘍ができる「原発性」と他から腫瘍が転移する「続発性」があります。

発作や旋回、眼振、運動失調など、腫瘍の部位によって症状が異なります。

また、性格や顔の表情が変わることもあります。

犬の低カルシウム血症【まとめ】

犬の低カルシウム血症(ていかるしうむけっしょう)は、本来、副甲状腺ホルモンや活性型ビタミンD3によって厳密に制御され、一定に保たれている血液中のカルシウム濃度が、これらの機能の破綻によって低下している病態です。

軽度の低カルシウム血症(血中総カルシウム値がおおむね7.5mg/dL以上)では、明らかな症状は現れませんが、「震えている」「脱力」「全身性の発作」を起こしている場合には、緊急治療が必要になります。

愛犬に低カルシウム血症の症状が出ている場合には、速やかに動物病院で獣医師に診てもらいましょう。

また、健康診断を受けることで愛犬の病気を早期に発見することが可能になるので、定期的に動物病院で検診をうけることをおすすめします。

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