【獣医師監修】犬が飼い主に噛みつく。考えられる原因や症状、おもな病気は?
愛犬にふとしたことで手や足を噛まれたら飼い主としてもショックですね。飼い主に対して噛みつく原因は、不安な気持ちや葛藤状態によるところが大きいようです。ここでは、犬が飼い主に噛みつく原因や考えられる病気について解説します。
更新日:
(獣医師・獣医学博士)
米国獣医行動学専門医(ACVB)
【経歴】
◇1992年:日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)卒業 獣医師免許取得(数年東京都内の動物病院に勤務)
◇1995年:パデュー大学Academic Review Program 在籍
◇1996-2004年:パデュー大学大学院 博士号 取得
◇2003-2006年:ジョージア大学付属獣医教育病院 獣医行動学レジデント
◇2012年 米国獣医行動学専門医 取得(Diplomate, American College of Veterinary Behaviorists)
◇2007-2013年:北里大学 獣医学部 動物資源科学科 講師
◇2013-2016年:日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 講師
◇2017-2018年日本ヒルズ・コルゲート株式会社 プロフェッショナル獣医学術部 マネージャー
◇2019年:どうぶつの総合病院 行動診療科 主任
◇2019年:日本ヒルズ・コルゲート株式会社 学術アドバイザー
◇2019年:北里大学 獣医学部 客員教授
◇2019年:9つの獣医大学 非常勤講師
(北海道大学、国立大学法人 岩手大学、国立大学法人 東京農工大学、日本獣医生命科学大、大阪府立大学、国立大学法人 岐阜大学、鳥取大学、国立大学法人 鹿児島大学、国立大学法人 山口大学)
【資格】
◇獣医師
【所属学会】
◆American College of veterinary Behaviorists
◆アメリカ獣医師会
◆公益社団法人 日本獣医師会
◆ねこ医学会(JSFM)
◆日本獣医行動学研究会
◆American Veterinary Society of Animal Behavior
【著書】
猫が幸せならばそれでいい: 猫好き獣医さんが猫目線で考えた「愛猫バイブル」(小学館)
犬が飼い主に噛みつく【考えられる原因】
Praisaeng / PIXTA(ピクスタ)
多くは飼い主とのコミュニケーション不足から
犬が他人に噛みつくのと、飼い主に噛みつくのでは意味が変わってきます。
他人の場合は、来てほしくないのに近づいてくるなど恐怖を感じた時ですが、飼い主に対して噛みつくのは、不安や恐怖、混乱を感じた時であり、うまくコミュニケーションがとれていない時に起こります。
犬が嫌がっていたり、少し怖がっていたりするサインを見逃していることも多く、犬とうまくコミュニケーションができていない理由として飼い主自体に問題があることも少なくありません。
犬は人間とコミュニケーションをとりたがる動物ですが、飼い主との関係を「主従関係」とは考えていなくて、どちらかと言うと「親子関係」に近い形で捉えています。
iStock.com/KAT_TAKA
人間の子供と母親の場合、目と目が合うと絆や幸せを感じる「オキシトシン」というホルモンが分泌されますが、犬と飼い主の間でもオキシトシンが分泌されることが論文で発表されています。
【参照元】麻布大学「ヒトとイヌの絆形成に視線とオキシトシンが関与」
犬は、飼い主の様子を観察して飼い主のことを理解しようと努めていますが、犬の知能は人間の2歳児程度なので、人間が発する言葉の意味をすべて理解しているわけではありません。
犬種や個体によって性格もまちまちなので、ゴールデンレトリバーのように達観していることもあれば、小型犬のように飼い主について回ることで飼い主とコミュニケーションをとろうとすることもあります。
Piotr Wawrzyniuk/ Shutterstock.com
飼い主と犬の関係を「上下関係」と捉えていると、突然噛まれたりすれば「何で言うことを聞かないのか!」と犬を叱ってしまいがちですが、本当にしつけのうまい人は、犬に分かりやすい態度をとり、何をすれば褒められるのか、何をしたら嬉しい状況ではなくなるのか、うまく伝えているようです。
飼い主に突然噛みつく原因は、てんかんなどの脳の病気などをのぞけば、コミュニケーション不足であることの方が多いのです。
iStock.com/Shuvalova Viktoria
犬は、犬の言葉を用いて私たち人間に気持ちを伝えているのですが、飼い主がそれをうまく読みとれず、葛藤状態になって吠える、歯をむくなどの「人の困る」行動をしてしまうことがあります。
この行動に対し、強引に主従関係を結ぶ名目で大きな声で叱ったり叩いたりすると、犬が人間に恐怖や不安を覚え、自らの身を守るためにやむを得ず攻撃することにつながります。
犬が飼い主に対して不安や恐怖を抱かないよう、犬の気持ちを読む勉強をして、さらに、犬に分かりやすい態度をとり、よりよい関係性を築くようにしましょう。
castenoid / PIXTA(ピクスタ)
病気が原因の場合
犬が飼い主に噛みつくのはその多くがコミュニケーション不足によるものですが、以下のような病気が原因であることも考えられます。
疼痛(とうつう)
関節炎や感染症、ケガによる痛み、皮膚炎のような痒みからくるイライラから噛みつくことがあります。
てんかん
特発性のてんかんは、1歳から6歳くらいまでの成犬がかかりやすいと言われています。
てんかんによる噛みつきは発作的なもので、ほかにもけいれんや意識消失、失禁などの症状が現れることもあります。
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内分泌系の疾患
甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)や副腎皮質機能低下症(ふくじんひしつきのうていかしょう)といった内分泌系の疾患は、イライラにつながることが多く、ストレスから噛みつくことがあります。
脳の疾患によるもの
先天的な水頭症(すいとうしょう)や、脳腫瘍といった脳の疾患は、飼い主に噛みつくことをはじめ、さまざまな問題行動を起こすことがあります。
常同障害
強いストレスや不安などにより、同じ行動を異常に繰り返す「常同障害(じょうどうしょうがい)」が原因で、犬は飼い主に噛みつくことがあります。
犬が飼い主に噛みつく【こんな症状は要注意!】
thanes satsutthi/ Shutterstock.com
夜泣きをすることに加え、以下の症状が見られる場合は、病気の可能性があるので病院で診てもらいましょう。
何の前触れもなく、いきなり噛みつかれる
噛みついた後に、ぶら下がったままぼーっとしている
1歳から6歳程度の成犬の場合、てんかんによる発作の可能性があります。
瞳孔の大きさが違う
脳腫瘍や水頭症など、脳疾患の可能性があります。
足元がふらついている
脳の疾患や内臓の疾患の可能性があります。
犬が飼い主に噛みつく【この症状で考えられるおもな病気】
iStock.com/Urvashi9
犬の水頭症
犬の水頭症(すいとうしょう)とは、頭蓋骨の内部を満たしている脳脊髄液(のうせきずいえき)が異常に増え、脳を圧迫することで、認知症や歩行障害などを引き起こす病気です。
感覚の麻痺、視力障害、過食など、症状はさまざまですが、目立った症状が現れないこともあります。
犬のてんかん
犬のてんかんとは、とくに原因もなく、突然、四肢を硬直させ、意識を失って倒れる病気です。
犬のてんかんの大半は特発性です。
口から泡を吹くほか、けいれんや意識消失、失禁などが現れ、重度の場合は何度も繰り返すようになります。
Aleksandar Malivuk/ Shutterstock.com
犬の常同障害
犬の常同(じょうどう)障害とは、しっぽを追いかけて回る、光を追う、空気を噛む、指を舐め続けるなど、同じ行動を異常に繰り返し、日常生活に支障をきたす状態です。
強いストレスや持続的不安、退屈、環境変化などさまざまな原因が考えられます。
犬の外耳炎
犬の外耳炎(がいじえん)とは、耳垢が刺激となり、外耳道の炎症が起きる病気です。
犬の外耳道はL字に曲がっているため、湿りやすく、耳垢が溜まり、細菌が繁殖しやすくなっています。
症状としては、耳の痒みや痛み、過剰な耳垢などが現れます。
savytska- stock.adobe.com
犬の関節炎
犬の関節炎(かんせつえん)とは、関節軟骨の炎症のため、関節に痛みが生じ、重症になると歩行障害が起きる病気です。
慢性の疾患ですが、症状に波があり、痛みがある時には動きたがらず足をかばって歩くようになります。
加齢によるもの以外に、感染症や免疫性疾患が原因になることもあります。
肥満が症状を悪化させることもわかっているので、体重管理には十分に気をつけましょう。
そのほか、犬の感染症や皮膚炎にかかることから痒みや痛みが生じ、噛みつくことがあります
犬の甲状腺機能低下症
犬の甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)とは、代謝などをコントロールする甲状腺ホルモンが分泌されなくなる病気です。
甲状腺の腫瘍が原因であることもあります。
おもな症状として、多飲多尿、肥満、活動性の低下、体温の低下、被毛のつやがなくなる、しっぽの毛が少なくなる、食事量の減少といった症状をきたします。
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犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
犬の副腎皮質機能亢進症(ふくじんひしつきのうこうしんしょう)とは、下垂体や副腎の腫瘍が原因となり、副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されます。
多飲多尿が見られます。
また、毛が抜け、皮膚が乾燥するほか体に左右対称の脱毛ができます。
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