【獣医師監修】「犬の腸閉塞」原因や症状、なりやすい犬種、治療方法は？

犬の腸閉塞（ちょうへいそく）とは、腸に何かが詰まったり、腸の動きが低下することで、消化管の内容物が腸を通れなくなる病気。完全に閉塞すると死に至る危険もあり、緊急の手術が必要です。ここでは、犬の腸閉塞の原因や症状、なりやすい犬種、治療法について解説します。

更新日：2023.06.14

先生にお聞きしました

石岡克己先生

日本獣医生命科学大学獣医学部獣医保健看護学科獣医保健看護学臨床部門・教授（獣医師・獣医学博士）

同大学付属動物医療センター消化器科担当獣医師

1993年に北海道大学獣医学部獣医学科を卒業し、獣医師免許を取得。

神奈川の動物病院で数年の勤務の後、北海道大学大学院獣医学研究科に入学、イヌの肥満の分子生物学をテーマに博士号を取得。その後、博士研究員を経て2005年より現職。

動物看護師の教育に携わりながら付属動物医療センターでは消化器科を受け持ち、内視鏡検査などを担当。

【資格】
◇獣医師

【所属】
◆日本動物看護学会誌編集委員長
◆全国動物保健看護系大学協会カリキュラム委員長
◆動物看護師統一認定機構カリキュラム検討委員長および問題策定委員長

【著書】
・「犬と猫の臨床検査マスターブック検査の意義とテクニックのポイント」(AS BOOKS)
など

犬の腸閉塞とは

Kajohnwat Srikulthanakij/ Shutterstock.com

腸は、胃から流れてきた食物をぜん動運動によって先へ送る役割を果たしていますが、この運搬がなんらかの原因によってせき止められた状態を腸閉塞と呼びます。腸閉塞は、以下の2つに分類されます。

機械的な閉塞

物理的に腸管の中がふさがっているために、管内物を運搬できない状態。

機能的な閉塞

腸の動きが低下しているために、管内物を運搬できない状態。

PCHT/ Shutterstock.com

「腸閉塞」と「イレウス」

「腸閉塞」という言葉は、英語の「イレウス」の日本語訳として使用されます。「イレウス」は物理的（機械的）な閉塞と腸の動きの低下による機能的な障害の両方を指す言葉ですが、「腸閉塞」には主に機械的な閉塞を指すニュアンスがあります。

原因

犬の腸閉塞【原因】

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犬の腸閉塞は、機械的な閉塞・機能的な閉塞によって原因が異なります。

機械的な閉塞の原因

異物の誤飲・誤食

石やおもちゃなど胃で消化できない異物を誤って飲み込んだ結果、胃は通過したものの腸管を通れず、腸の中で閉塞を起こす原因になることがあります。

腸閉塞のもっとも多い原因であり、とくに小型犬は果物の種など比較的小さいものを飲み込んでも、腸管が細いために閉塞することがあります。

Wasitt Hemwarapornchai/ Shutterstock.com

腫瘍

腸の一部に腫瘍ができると、徐々にふくらんで腸管の通りを悪くする原因になることがあります。

腫瘍が原因である場合は、異物による閉塞よりも徐々に進行するのが特徴です。

その他

腸重積（ちょうじゅうせき：腸壁が腸管内に入り込みつつ折り重なる病気）、腸捻転（ちょうねんてん：腸がねじれる病気）、嵌頓ヘルニア（かんとんへるにあ：腸が外に飛び出して戻らなくなる病気）などの腸疾患によって、腸の流れをせき止める原因になることがあります。

腹腔内に腫瘍ができて腸を圧迫することもあります。

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機能的閉塞の原因

膵炎・腹膜炎など重度の炎症の影響によって、腸の動きが低下し、消化管の内容物を運搬できないことがあります。

完全に通過できなくなるケースはまれです。

症状

犬の腸閉塞【症状】

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以下のような症状が見られたら腸閉塞の恐れがあるので、すぐに獣医師に診てもらいましょう。

嘔吐する

元気がない

食欲がない

おなかを痛がる

症状の出方や程度は、閉塞の程度（完全閉塞あるいは不完全閉塞）や部位によって異なります。

重度の場合は、ショック症状を起こします。

発症しやすい犬種

犬の腸閉塞【発症しやすい犬種】

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犬の腸閉塞はすべての犬種に発症の可能性がありますが、腸の細い小型犬のほうがリスクが高いです。

診断方法

犬の腸閉塞【診断方法】

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身体検査

視診や触診により、腸内異物や腸の重責、腸管の拡張などを確認します。

X線検査

腸管内に金属などの異物がないか調べることを目的として、X線検査を行います。

必要があれば、バリウムなどの造影剤を飲ませ、バリウムの流れが妨げられる場所（閉塞部位）がないか確認します。

超音波検査

腸管内異物の探索、腸の運動性の評価を目的として行います。

腸閉塞の場合には、腸の内容物が往復移動する特徴的な所見が確認されることがあります。

治療方法

犬の腸閉塞【治療方法】

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犬の腸閉塞は緊急疾患のため、外科手術で治療します。

機械的な閉塞の治療

異物が原因の場合は異物を取り出し、腫瘍が原因なら腫瘍を切除し、腸管の流れを正常に戻します。

腸管が圧迫されると周辺組織が壊死し、腸穿孔につながることもあるため、壊死した腸を切除して吻合術（ふんごうじゅつ）を施すこともあります。

機能的な閉塞の治療

原因となる疾患に対して治療を行います。

予防・対策

犬の腸閉塞【予防対策】

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犬の腸閉塞は、機械的な閉塞に限り、以下の予防法が有効です。

機能的な閉塞に効果的な予防法はありません。

異物の誤飲・誤食が原因の場合

犬が口にしやすい場所に食べてはいけないものを置かないようにしましょう。

散歩の際は拾い食いをしないように注意し、異物に近づいたらすぐに引き離してください。

腸の疾患が原因の場合

腸ヘルニアなど、基礎疾患を適切に治療しておきましょう。

犬の腸閉塞と間違えやすい病気

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犬の胃炎

犬の胃炎（いえん）とは、胃の粘膜の炎症で、急性と慢性があります。

発症して数日程度のものを急性胃炎、数週間（目安として3週間程度）以上続くものを慢性胃炎と呼びます。

中毒性物質の誤飲誤食によるもの、ヘリコバクターという細菌の感染によるもの（ヘリコバクター性胃炎）、薬物の副作用によるものなどがあります。

犬の胃潰瘍

犬の胃潰瘍（いかいよう）とは、胃粘膜の一部が削られたようになる病気です。

重度の胃炎や胃腺癌、ガストリノーマ（がんの一種で、胃液分泌を刺激するホルモンを過剰に分泌する）、非ステロイド性抗炎症薬の副作用などによって起こります。

食欲が低下し、嘔吐や吐血が見られます。

重度の場合は黒色のタール便が見られ、胃に穴が開いて危険な状態（胃穿孔）になることもあります