【獣医師監修】犬の胃潰瘍 原因や症状、なりやすい犬種、治療方法は?
犬の胃潰瘍 (いかいよう)とは、胃の粘膜の一部が削られたようになる病気。食欲が低下し、嘔吐や吐血などの症状が見られます。ここでは、犬の胃潰瘍の原因や症状、治療法について解説します。
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同大学付属動物医療センター 消化器科担当 獣医師
1993年に北海道大学獣医学部獣医学科を卒業し、獣医師免許を取得。
神奈川の動物病院で数年の勤務の後、北海道大学大学院獣医学研究科に入学、イヌの肥満の分子生物学をテーマに博士号を取得。その後、博士研究員を経て2005年より現職。
動物看護師の教育に携わりながら付属動物医療センターでは消化器科を受け持ち、内視鏡検査などを担当。
【資格】
◇獣医師
【所属】
◆日本動物看護学会誌 編集委員長
◆全国動物保健看護系大学協会カリキュラム委員長
◆動物看護師統一認定機構カリキュラム検討委員長および問題策定委員長
【著書】
・「犬と猫の臨床検査マスターブック 検査の意義とテクニックのポイント」(AS BOOKS)
など
犬の胃潰瘍とは
Africa Studio/ Shutterstock.com
胃には酵素から胃を守る粘液が分泌されています。
ところが、何らかの原因により胃の防御機能が弱まったり、胃酸の分泌量が急増したりすると、胃酸により胃の粘膜が破壊され、肉眼でわかるほど一部が欠損してしまいます。
この状態を「胃潰瘍」と呼びます。
ちなみに、傷が胃の粘膜下層に達しない状態を「びらん」、粘膜下層より深い状態を「潰瘍」、胃壁を貫通して胃に穴が開いている状態を穿孔(せんこう)と呼びます。
胃潰瘍は穿孔に進行することがあり、穴が大きいと胃の内容物が腹腔内に漏れ、腹膜炎(ふくまくえん)を起こすこともあります。
胃潰瘍の進行
犬の胃潰瘍【原因】
犬の胃潰瘍には、以下のような原因が考えられます。
薬の服用
痛み止めとして投与されるNSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド性抗炎症薬)、アレルギーを抑えるために使うグルココルチコイド製剤(プレドニゾロンなど)などの薬を使いすぎると、胃が荒れて胃潰瘍の原因となることがあります。
基礎疾患
消化管腫瘍(胃腺癌・肥満細胞腫・消化器型リンパ腫など)、腎臓病などの症状のひとつとして、胃潰瘍が生じることがあります。
まれに、膵臓などに発生する腫瘍「ガストリノーマ」によって胃液分泌を刺激するホルモン(=ガストリン)が過剰に分泌され、胃酸分泌が増えて胃が荒れ、「びらん」や「胃潰瘍」につながることもあります。
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ストレスも胃潰瘍の原因?
人間の胃潰瘍はストレスが要因のひとつとして知られていますが、犬の場合はストレスが胃潰瘍の原因になるかどうかはっきりとしたことはわかっていません。
犬のストレス性の消化器疾患としては、血便などを示す過敏性腸症候群(IBS)が知られています。
犬の胃潰瘍【症状】
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犬の胃潰瘍には、以下のような症状が見られます。
ある適度病気が進行してから現れることが多いです。
元気がなくなる
食欲不振になる
おなかを痛がる
嘔吐する
吐血する
黒色の便(タール便)が出る
吐血の症状があれば、診察を受ける際に症状を写真や動画に撮って、獣医師に見せることをおすすめします。
吐血の色や犬の様子がわかると、正確な診断に役立つでしょう。
犬の胃潰瘍【発症しやすい犬種】
eAlisa/Shutterstock.com
犬の胃潰瘍は、すべての犬種に発症の可能性があります。
犬の胃潰瘍【診断方法】
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犬の胃潰瘍の診断は、以下のような方法で行います。
内視鏡検査
内視鏡を使って胃の粘膜を観察し、採取した組織を顕微鏡で拡大して調べます。
隠れている癌などを見つけられる場合があります。
超音波検査
エコーで胃の構造や動きなどを詳しく調べます。
試験開腹
症状や病状によっては、試験的にお腹を開ける外科手術を行うこともあります。
犬の胃潰瘍【治療方法】
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犬の胃潰瘍の治療は、原因が判明している場合はそれを取り除く治療(原因療法)を行い、併せて症状を取り除くための治療(対症療法)を行います。
薬物が原因
当該薬の使用を中止します。
基礎疾患が原因
胃潰瘍の治療とともに、基礎疾患の治療を行います。
対症療法
胃の粘膜を守る胃粘膜保護剤、胃酸の分泌を抑える制酸剤を投与するのが一般的です。
そのほか、輸液や制吐薬の投与など、基本的には胃炎と同じ治療を施します。
犬の胃潰瘍【予防対策】
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薬の服用が原因
使用している薬の副作用を知っておくことが大切です。
処方される際に獣医師や薬剤師に聞いておきましょう。
基礎疾患が原因
基礎疾患を適切に治療しましょう。
このほか、誤飲誤食が症状を悪化させることもあるため、拾い食いなどにも気を付けてください。
犬の胃潰瘍と間違えやすい病気
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犬の胃炎
犬の胃炎(いえん)とは胃の粘膜の炎症で、急性と慢性があります。
発症して数日程度のものを急性胃炎、数週間(目安として3週間程度)以上続くものを慢性胃炎と呼びます。
中毒性物質の誤飲誤食によるもの、ヘリコバクターという細菌の感染によるもの(ヘリコバクター性胃炎)、薬物の副作用によるものなどがあります。
犬の胃腺癌
犬の胃腺癌(いせんがん)とは、胃に悪性腫瘍ができる病気です。
食欲不振や嘔吐、吐血、体重減少などが見られます。手術で切除できる場合もありますが、病変が大きかったり他の臓器に転移した場合、予後は悪くなります。
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犬の消化器型リンパ腫
犬の消化器型リンパ腫(しょうかきがたりんぱしゅ)とは、リンパ球が癌化する病気で、胃や小腸、大腸で発生します。
食欲の減退や嘔吐、下痢、体重減少が起こります。
がんの一種なので予後は厳しいのですが、リンパ腫は抗がん剤が比較的効きやすい(症状を和らげやすい)腫瘍と言われています。
犬の炎症性腸疾患(IBD)
犬の炎症性腸疾患(えんしょうせいちょうしっかん)とは、白血球が腸粘膜に集まり、炎症を起こす原因不明の病気です。
リンパ球プラズマ細胞性腸炎、好酸球性胃腸炎など、発症部位や白血球の種類によって分類されます。
慢性的な下痢や嘔吐を起こします。
プレドニゾロンなどの免疫抑制薬が有効なことから、近年は免疫抑制薬反応性腸症(IRE)と呼ばれるようになりつつあります。
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犬の肥満細胞腫
犬の肥満細胞腫(ひまんさいぼうしゅ)とは、アレルギー反応に関与する「肥満細胞」が腫瘍化する病気です。
肥満細胞は炎症を引き起こす化学物質(ヒスタミンなど)を持つため、できものが赤く腫れ上がって痒みが出たり、胃潰瘍が起こる恐れもあります。
肥満細胞は白血球の一種でリンパ管を通じて移動することができるため、転移が起きやすい腫瘍として知られています。
犬の幽門狭窄
犬の幽門狭窄(ゆうもんきょうさく)とは、胃の出口である幽門が狭くなり、十二指腸へ食べ物や消化液をうまく送り出せなくなる病気です。
遺伝性のほか、胃潰瘍や腫瘍などの病気が原因となり、嘔吐や脱水、食欲不振、体重減少が起こります。
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犬の食物アレルギー
犬の食物アレルギー(しょくもつあれるぎー)とは、本来無害な食べ物に対し、免疫が過剰に働き、過敏に反応してしまう状態です。
原因は小麦、牛肉、乳製品、大豆などさまざまで、体をかゆがる、毛が抜ける、下痢や嘔吐、顔面の発赤等のアレルギー症状が起こります。
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