ProfessionalインタビューVol.5【一般社団法人日本ペット栄養学会会長】左向敏紀先生
hottoの記事を監修していただいている動物のプロフェッショナルに専門領域でのご経験や方針、また今後の展望などを伺うシリーズProfessionalインタビュー。今回は、日本獣医生命科学大学名誉教授で、日本におけるペット栄養学の第一人者として知られる左向 敏紀(さこう としのり)先生にお話を伺いました。
- 更新日:
◆日本獣医生命科学大学 名誉教授
◆一般社団法人 日本ペット栄養学会 会長
◆日本内分泌研究会会長
◆一般社団法人 日本動物看護系大学協会会長
【資格】
◇獣医師
【経歴】
日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)卒業後大学に残り、馬、牛,小動物の消化器・内分泌・代謝性疾患の研究を行う。
1990年小動物栄養学に関する研修のためにアメリカオハイオ州立大学に留学。
2006年より日本獣医生命科学大学 ・獣医保健看護学科で動物看護師の教育に当たる。
教育:獣医内科学、獣医内分泌学、動物栄養学、動物臨床看護学など
研究:動物の代謝・内分泌学、栄養学
目次
アメリカ留学を機に小動物の栄養学研究の道へ
もともとは、馬や牛などの産業用動物の研究に取り組まれていたと伺いました。
左向先生(以下、左向):そうです。
大学院卒業後10年くらいは、恩師である本好茂一先生(日本獣医生命科学大学名誉教授)のもとで、馬や牛といった産業動物の研究、主に脂質代謝の研究に取り組んでいました。
もともと馬が大好きで馬を診る獣医を目指していましたので、研究はとても楽しく、充実した毎日でした。
転機となったのは、1990年のアメリカのオハイオ州立大学への留学です。
留学先の研究室では小動物の尿石症の研究に取り組んでおり、「尿石症を食事のコントロールにより治療や予防をする」という発想から、小動物の栄養学についての研究も行われていました。
私も尿石症の研究と同時に小動物の栄養学の研究手法を学ばせてもらい、帰国後、本格的に研究を続けることになりました。
大学では獣医保健学科で動物看護師の教育にも取り組む
当時、日本ではまだ小動物の栄養に関する研究は進んでいませんでしたが、1990年代半ばにはペットの食への関心の高まりを受けて、主にペットフードメーカーと大学の連携による研究が進み、1998年には「ペット栄養学会」が発足。
私は2015年から同学会の会長に就任し、ペットの健康維持増進を目的に、産官学が一丸となって、ペットフードの安全性の確保や品質向上を促進する取り組みを続けています。
犬種や年齢に応じた栄養管理を
ペットの栄養については、さまざまな情報が氾濫していることもあって、自分の愛犬の栄養管理に悩む飼い主さんも多いですが、どのように栄養管理をするのが良いのでしょうか?
左向:まず知っておいてほしいのは、”栄養管理において、すべての犬に当てはまる「正解」はない”ということです。
そもそも、ひとくちに「犬」と言っても、犬種によってその性質は様々です。
たとえばシベリアン・ハスキーのように野生に近い状態で長く暮らしてきた犬種と、チワワのように屋内で人間と一緒に長く暮らしてきた犬種とでは、アミラーゼという炭水化物を分解する酵素の分泌量が異なるので、与えるべき食事も異なります。
また、その犬の年齢や健康状態によっても必要な栄養は違ってきます。
確かな参考書などで確認したり、できれば、獣医師や動物看護師にアドバイスを受けながら、栄養管理に取り組むようにしたいものです。
手作りフードのみでの栄養管理は、非常に困難
愛犬にはペットフードではなく、手作りフードを食べさせたいと願う飼い主さんも少なくありません。
左向:愛犬との絆を深めるための手段の1つとして、まずは、時々手作りフードを作り、少しずつ置き換えてゆくことが良いと思います。
愛犬の食事をすべて手作りフードにするのは、「栄養管理の面で問題が起きやすい」と言わざるを得ません。
手作りフードだけでは、特定の栄養素が過多もしくは欠乏状態になってしまいがちなため、愛犬に必要な栄養をすべて満たすのは、非常に困難だからです。
また、「犬はもともと肉食の生き物だから、肉だけを与えれば良い」という方もいらっしゃいますが、野生の肉食獣は狩りでとらえた獲物の「肉」だけを食べているわけではありません。
肉と一緒に骨や内臓を食べることによってカルシウムやミネラル、ビタミンを一緒に摂取して健康を維持しているのです。
当然ながら、家庭で暮らす犬は狩りなんてしませんから、食事に肉しか与えられないと、栄養がアンバランスな状態に陥ってしまいます。
ペットフードは「総合栄養食」表記の商品を選ぶ
どのようなペットフードを選べばよいのでしょうか?
左向:愛犬の年齢や健康状態によって必要な栄養が異なるので、一概には言えません。
ただ、1つの目安としては、「総合栄養食」と明記された商品を選ぶことをおすすめします。
犬の総合栄養食というのは、その「フードと水だけ」で愛犬が健康を維持できるように栄養バランスを考慮して作られたフードのこと。
「総合栄養食」を名乗ることができるのは、「ペットフード公正取引協議会」が、世界的なペットフードの栄養基準の指針であるAAFCO(米国飼料検査官協会)の基準に準拠して定めた栄養基準をクリアしたものだけです。
そして、定期的に中身の成分を検査されているもので、安心して与えるものを意味しています。
体重管理、年齢に合わせた栄養管理、メディアリテラシーを大切に
フード選び以外では、どんな点に気を付けて栄養管理をすればよいでしょうか?
左向:まず、肥満に注意することです。
犬は猫や人間と違って、体重が増えても動脈硬化や糖尿病にはなりにくいと言われていますが、太り過ぎると自分の体重による負担で関節を痛めたり、膝蓋骨(しつがいこつ)が外れたりするトラブルが起こりやすくなります。
また、病状が悪化すると運動機能が低下して歩くことができなくなって、生活の質が低下してしまうので、太り過ぎには十分注意してあげてください。
ある研究で、飼い主さんの目には愛犬が実際よりも痩(や)せて見えがちであることが証明されています。
第三者の目で確認してもらうためにも、定期健診を受けて獣医師に愛犬の体型変化を確認してもらうことも大切です。
また、ペットの体型を見た目と触った感覚で「痩せ過ぎ」「適正」「太り気味」「太り過ぎ」を9段階で評価する「ボディコンシャススコア」という方法があります。
インターネットで検索するとすぐに出てきますから、愛犬の体重管理の参考にすると良いでしょう。
ライフステージに応じて栄養バランスやカロリーを見直すことも大切です。
特に大切なのは、1歳半ぐらいまでの成長期。
この時期に必要な栄養がバランスよく十分に与えられないと、成長不全に陥ってしまい、その後のライフステージにも悪い影響を及ぼしてしまうおそれがあります。
成犬になったら、特に持病がない限り、特別な栄養管理は必要ありませんが、老年期に入ると病気にかかりやすくなるので、獣医師と相談しながら病気予防の一環としての「栄養管理」に取り組むと良いでしょう。
その意味でも、ペットの栄養管理に詳しい獣医師や看護師がいる動物病院をかかりつけにしておくと安心です。
そして、飼い主さん自身が”正しい知識を身に付ける”こと。
インターネット上にもペットの健康や栄養管理について膨大な数の情報が溢れていますが、その内容は”玉石混交”です。
非常に役立つ貴重な情報もあれば、まったく事実無根で根拠のない情報もたくさん見受けられます。
メディアに書いてあることを参考にしつつも、飼い主さんが栄養のこと、ごはんのことに関心を持ち学んでいくことが、愛犬の健康を守ることにつながると思います。
愛犬の様子、食欲、うんちの様子を見て、毛艶や皮膚の様子などはよく触れて、変化をいつも良くみてあげる事が重要です。
愛犬のことは”家族が最も分かっている”と自負を持つことです。
前述の通り、すべての犬に当てはまる「正解」はないので、ご自身の愛犬の特性や状況をしっかり把握して、必要に応じてかかりつけの獣医師に相談しながら健康管理をしていくことも、とても大切です。
【一般社団法人日本ペット栄養学会会長】左向敏紀先生監修記事
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