【獣医師監修】犬の療法食とは?種類は?子犬から老犬まで、必要な場合と与える際の注意点を解説!
ネット通販でも飼い主が購入できる療法食は、愛犬がどのような時に与える必要があるのでしょうか?犬の療法食の種類を知っておくと同時に、療法食を与える際の注意点、手作り食やおやつをあげる場合に気をつけたいことなどを詳しく解説します。
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◆日本獣医生命科学大学 名誉教授
◆一般社団法人 日本ペット栄養学会 会長
◆日本内分泌研究会会長
◆一般社団法人 日本動物看護系大学協会会長
【資格】
◇獣医師
【経歴】
日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)卒業後大学に残り、馬、牛,小動物の消化器・内分泌・代謝性疾患の研究を行う。
1990年小動物栄養学に関する研修のためにアメリカオハイオ州立大学に留学。
2006年より日本獣医生命科学大学 ・獣医保健看護学科で動物看護師の教育に当たる。
教育:獣医内科学、獣医内分泌学、動物栄養学、動物臨床看護学など
研究:動物の代謝・内分泌学、栄養学
犬の療法食とは?
len4foto / PIXTA(ピクスタ)
犬の「療法食」とは、病気の時に投薬や内科療法以外に、獣医師が食事療法(食事による栄養管理)が必要と判断した場合に用いるペットフードのこと。
療法食は、病気や健康状態に応じて栄養成分の量や比率が調整され、特別な方法で作られています。
また、犬の療法食は、「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)」「景品表示法」「公正競争規約」「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」などで規制されています。
犬の療法食の基準は、以下のとおりです。
【犬の療法食の基準】
1.療法食の範囲
2.療法食の用途と栄養特性
3.療法食の表示
4.療法食の栄養特性と設定根拠
犬の療法食の基準を満たして療法食に適合した場合は、適合マークが付けられているものも多数あります。
積極的に適合申請をして適合マークを付けて販売しているメーカーもあれば、付けていない企業もあります。
犬の療法食の種類は?
ArtCookStudio / PIXTA(ピクスタ)
犬の療法食のうち「栄養特性に関する基準が定められた療法食リスト」として一般財団法人獣医療法食評価センターが作成(日本ペット栄養学会が監修)し公表しているものは以下の通りです。
犬の療法食の種類①【慢性腎機能低下(慢性腎臓病)の療法食】
リンかタンパク質を制限し、高品質なタンパク質を使用しているか、窒素(ちっそ)含有成分の吸収を低減するように工夫されているもの。
犬の療法食の種類②【尿結石用の療法食】
ストルバイト結石(溶解時)
尿を酸性化する特性があり、マグネシウムとタンパク質を制限し高品質なタンパク質を使用したもの。
a)ストルバイト結石(再発防止時)
尿を酸性化する特性があり、マグネシウムを中程度制限したもの。
b)尿酸塩結石
プリン体とタンパク質を制限し、高品質なタンパク質を使用したもの。
c)シュウ酸塩結石
カルシウムとビタミンDを制限し、尿をアルカリ化する特性を持つもの。
d)シスチン結石
タンパク質を制限し、含硫アミノ酸(メチオニンなど)を中程度に制限し、尿をアルカリ化する特性を持つもの。
犬の療法食の種類③【食物アレルギーまたは食物不耐症】
食物アレルギーまたは食物不耐症の原因として認識されにくい原材料(加水分解タンパク質、新奇タンパク質、精製したアミノ酸類)を使用したもの。
または、食物アレルギーまたは食物不耐症の原因となる特定の原材料を使用せず、製造管理による混入を防止したもの。
犬の療法食の種類④【皮膚疾患】
iStock.com/Watcharin panyawutso
必須脂肪酸を増強したもの。
犬の療法食の種類⑤【消化器疾患】
急性腸吸収障害
電解質を増強し、高消化性の原材料を使用したもの。
a)繊維反応性大腸性下痢
食物繊維を増強したもの。
b)消化不良
高消化性の原材料を使用し、脂肪を制限(低脂肪に)したもの。
犬の療法食の種類⑥【慢性心機能低下(心臓病)】
ナトリウムを制限したもの。
糖尿病
分解され急速にブドウ糖が遊離し、血糖を上昇しやすい炭水化物を制限したもの。
犬の療法食の種類⑦【慢性肝機能低下】
高品質なタンパク質を使用しながらタンパク質を中程度に制限し、必須脂肪酸・高消化性の炭水化物を増強し、銅を制限したもの。
※タンパク質の代謝(異化)は肝臓で行われるため、タンパク質が過剰だと肝臓に負担がかかります。肝臓機能の回復には、炭水化物が必要です。
また、銅の排泄は肝臓で行われます。犬種により肝臓での銅の排泄能力が低いために肝障害が進行すると考えられています。
犬の療法食の種類⑧【高脂血症】
iStock.com/phatthanit_r
脂肪を制限(低脂肪)し必須脂肪酸を増強したもの。
犬の療法食の種類⑨【肥満】
低エネルギー密度のもの。
犬の療法食の種類⑩【栄養回復】
高エネルギー密度で高濃度の必須栄養素を含有し、高消化性の原材料を使用したもの。
犬の療法食の種類⑪【関節疾患】
オメガ3脂肪酸とEPAを増強し、適量のビタミンEを含有したもの。
犬の療法食の種類⑫【口腔疾患】
iStock.com/24K-Production
噛むことで歯の表面に付着した歯垢をこすりとる働きを持つ食物繊維が層状の構造になっていて、カルシウムが制限されているもの。
なお、現在は癌(がん)の療法食は販売されていません。
がん細胞(リンパ腫での研究)は、ブドウ糖・炭水化物の利用が得意で、脂肪の利用が不得意とされています。
そのため、脂肪(特にオメガ3の脂肪)を与えると良いとされています。
癌(がん)に罹(かか)っている動物は栄養失調であること多いので、療法食ではなく、高栄養の栄養回復食を用いることも少なくありません。
また、てんかん用の療法食もあります。
特発性てんかん、または夜鳴きなどの認知機能不全症候群に対して治療をサポートするとされているものです。
栄養素としては、オメガ3脂肪酸(DHAやEPA)や、肝臓でエネルギーに用いられやすいという中鎖脂肪酸が加えられています。
中鎖脂肪酸がてんかんの発作をある程度抑制できるとの報告が出ているからです。
犬の療法食はいつまで必要?
アオサン / PIXTA(ピクスタ)
犬の療法食は薬ではありませんが、病状によって増量したり中止したりする薬物治療と同様、獣医師が食べさせ方や種類変更や終了時期を判断します。
療法食を食べている場合は、定期的に通院しつつ獣医師の指導を受けるのが重要です。
犬の療法食の種類にもよりますが、獣医師の指導なしに3ヶ月以上にわたって同じ処方食を愛犬に与え続けることはリスクがあると言えるでしょう。
長期的に使用可能な療法食もありますが、いつまで療法食を続けるべきかについては必ず獣医師と相談してください。
犬の療法食、おすすめは(子犬・成犬・老犬)?
Gera8th / PIXTA(ピクスタ)
犬の療法食は、病気の動物のために栄養成分の量や比率が調整されたものなので、健康な子犬や成犬にはほとんど必要ありません。
特に、成長期の子犬に栄養成分のバランスが偏ったフードを与えると、栄養失調を起こす危険があります。
成犬では、肥満のケース以外は、総合栄養食を与えるのがベストです。
シニア犬や超高齢犬でも、健康であれば療法食を与える必要はありません。
老齢犬は慢性腎臓病になりやすいから、インターネットのブログやSNSでおすすめされているからなどといった理由で、早めに腎臓病食などを与えないようにしましょう。
子犬から老犬まで、自己判断で療法食を与え始めると、かえって病気になる可能性があるので要注意。
獣医師と相談しながら、獣医師がすすめる療法食を必要に応じて使いましょう。
なお、療法食はいくつかの成分を制限しているため嗜好(しこう)性が低く、愛犬が好んで食べないものもあるでしょう。
特に慢性腎臓病用のフードは、タンパク質が制限されているために嗜好性が低め。
iStock.com/Zontica
腎臓病で食欲が落ちている状態の愛犬は、なかなか食べようとしないかもしれません。
その場合、慢性腎臓病用の食事をいくつか試しながら犬が口にしやすいフードを用いるようにします。
一般的にはドライフードよりウェットフードの方が嗜好性は高いので、食欲の落ちている愛犬には缶詰やパウチといったウエットフード試してみると良いでしょう。
犬に療法食を与える場合の注意点!(ネット通販など)
iStock.com/recep-bg
当然のことながら、犬の病気によって適した療法食は異なります。
そのため、療法食の栄養バランスはすべての犬に適した栄養バランスとは限りません。
つまり、「療法食=総合栄養食」とは言えません。
獣医師の処方がなくてもネット通販で療法食は簡単に入手できますが、自己判断で総合栄養食から療法食に切り替えたりすると、愛犬の健康を害する恐れがあるので注意しましょう。
おでか犬 / PIXTA(ピクスタ)
病状の変化に合わせて薬の量や種類が変わると同じように、療法食の種類や与え方も変わることがあります。
病状に合わない療法食を長く食べさせると、かえって健康状態を悪化させる可能性があるので、安全で効果的な食事療法を行うために動物病院で定期的に診察を受けるも重要なポイントです。
なお、愛犬が病気で食事療法が必要な場合は、手作り食やおやつで与える食材にも注意してください。
例えば、腎臓病の犬には、ささみやジャーキーといったタンパク質は避けるようにしましょう。
iStock.com/EkaterinaZakharova
タンパク質やアンモニアといった代謝物は腎臓から排泄されます。
このため、タンパク質が過剰だと腎臓に負担がかかるからです。
また、心臓病の犬には、塩分・ナトリウムの含有量が少ないものにしましょう。
心疾患がある場合、血管を流れる血液量が増えると心臓に負担がかかるので、体内の水分を増やすナトリウムを制限する必要があるからです。
愛犬が食事療法で制限すべきものは何かを獣医師に聞いたうえで、おやつも含めて日々の食生活の適切に管理するのが重要です。
【参照元】『小動物の臨床栄養学 第5版』(マーク・モリース研究所発行、監訳:岩﨑利郎、辻本元)2014年インターズー
犬の療法食のまとめ
Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
犬の療法食は、病気で食事療法を行う際に獣医師の判断で用いられるものです。
病気がなく健康な子犬、成犬、老犬には療法食は不要です。
ネット通販でも獣医師の処方なしに入手できますが、愛犬の健康をかえって害することのないよう、療法食の種類の選別や与え方は獣医師の指示によく従ってください。
手作り食の場合やおやつを与える際も、愛犬が制限しているものをうっかり与えないように気をつけましょう。
愛犬の健康を守ることができるのは飼い主だけです。
正しい知識を持って、毎日の愛犬の生活に役立ててくださいね。
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