【獣医師監修】犬の「糖尿病」原因や症状、なりやすい犬種、治療方法、予防対策は?インスリンの働きとは?
犬の糖尿病(とうにょうびょう)とは、血糖値をコントロールするホルモンであるインスリンが不足したり、作用しないために起きる病気です。インスリンが不足したり、作用しにくくなると、血液中のブドウ糖が筋肉や臓器に取り込まれなくなり、その結果、血糖値が高くなります。今回は、糖尿病の原因や症状、治療法について詳しく解説します。
更新日:
獣医保健看護学臨床部門准教授(獣医師)
【資格】
◇獣医師
日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)獣医学部獣医学科卒業。
2009年に日本獣医生命科学大学大学院で博士(獣医学)号を取得。
2012-2013年、イリノイ大学に留学。
現在、日本獣医生命科学大学付属動物医療センター内分泌化を担当。
犬および猫の内分泌分野を中心に診療、研究を行っている。
5歳のMix犬「ぽよ」と同居中。
目次
【インスリン】の働き(分泌ホルモン)
stepmorem/ Shutterstock.com
インスリンは血糖値を下げるホルモン
インスリンは、膵臓(すいぞう)に点在する「ランゲルハンス島」と言う島状の組織にあるβ(ベータ)細胞から分泌されるホルモンです。
炭水化物などの食物を摂取すると、消化・吸収され、ブドウ糖に変換されます。
ブドウ糖は血液の流れにのって全身に運ばれて、筋肉や臓器が活動するためのエネルギーになります。
インスリンは、血液中のブドウ糖を細胞に送り込んでエネルギーに変えたり、ブドウ糖を脂肪やグリコーゲンと言う物質に変えて、エネルギー源として蓄える働きをしています。
このような働きによって、インスリンは血糖値をコントロールしています。
犬の糖尿病の症状【高血糖になる仕組み】
糖尿病発症のメカニズム
膵臓(すいぞう)のβ細胞で作られるインスリンが、膵臓(すいぞう)の異常によって作られなくなったり、インスリンが作用しにくい状態になると、血液中のブドウ糖が筋肉や臓器に取り込まれなくなるため、ブドウ糖は行き場を失って、血液中に残存することになります。
この結果、高血糖となり、糖尿病の症状が現れるようになります。
高血糖になると、尿の浸透圧が上がり、尿に多くの水分を取り込むために大量の尿を出したり(多尿)、脱水状態となって異常に水を飲む(多飲)ようになります。
犬の血糖値は通常80-100mg/dlですが、200-250mg/dlを越えると糖尿病であると診断されます。
犬の糖尿病【原因】
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犬の糖尿病「原因」①【インスリンが不足】
インスリンが作られなくなる直接的な原因は不明ですが、遺伝的なもの、自己免疫性の疾患や膵炎などによって、β細胞が減少したり、消失するためだと考えられています。
出生時や1〜2歳の時に発症する若齢性の糖尿病もまれにありますが、その遺伝的要因はまだ明らかになっていません。
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犬の糖尿病「原因」②【インスリンが効かなくなる】
インスリンが作用しにくい状態になると、より多くのインスリンを分泌しようとしますが、最終的に膵臓(すいぞう)が疲弊してしまい、インスリンが出せなくなります。
インスリンが効かなくなる原因として考えられるのは、以下の場合です。
インスリンが効かなくなる原因①【発情後や妊娠時の高プロゲステロン血症】
犬の妊娠期間は約2ヵ月ですが、妊娠していなくても発情後の2ヵ月間(黄体期:おうたいき)には、「プロゲステロン」と言うホルモンが分泌されます。
避妊していないメス犬では、年1~2回の発情のたびにプロゲステロンの分泌が繰り返されるために、インスリンが効きずらくなり、糖尿病を発症する場合があります。
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インスリンが効かなくなる原因②【クッシング症候群】
クッシング症候群とは、「副腎」と呼ばれる臓器から「コルチゾール」と言うホルモンを過剰に分泌してしまう病気です。
コルチゾールが過剰に分泌されるとインスリンが効かなくなって、糖尿病の症状が見られることがあります。
インスリンが効かなくなる原因③【医原性】
ヘルニアや自己免疫性疾患などの疾患で投与されるステロイド剤(グルココルチコイド)の影響によって、インスリンが効かなくなって糖尿病になることがあります。
犬の糖尿病【症状】
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犬の糖尿病には、以下のような症状が見られます。
犬の糖尿病「症状」①【初期症状】
多飲多尿
高血糖になると、尿の浸透圧が上がり、多くの水分を取り込むために大量の尿を出したり(多尿)、異常に水を飲む(多飲)ようになります。
食欲過剰
一見、元気そうに見えますが、多飲多尿の症状を見逃さずに、初期の状態で動物病院を受診するようにしましょう。
体重減少
食べているのに痩せてくるというのが特徴です。
被毛がバサバサになる
犬の糖尿病「症状」②【若年性糖尿病の場合】
発育不良
食べても体重が増えません。
元気がない
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犬の糖尿病「症状」③【膵炎(すいえん)を発症している場合】
初期の段階から次のような症状が見られます。
元気がない
食欲がなくなる
発熱がある
嘔吐している
便が軟らかい(軟便)
犬の糖尿病「症状」④【副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)を発症している場合】
多飲多尿
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多食
脱毛
腹囲膨満
筋力低下
皮膚病
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犬の糖尿病「症状」⑤【高プロゲステロン血症を発症している場合】
発情出血した1〜2ヵ月後に糖尿病を発症することが多く、乳腺が腫れることがあります。
犬の糖尿病「症状」⑥【「ケトアシドーシス」と言う状態】
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体重減少が進んで痩せてくると、体内に蓄積された脂肪を肝臓に運んでエネルギーに変えようとします。
エネルギーのもとになるATP(アデノシン三リン酸)を作ろうとするのですが、インスリンがないために、うまく作られなくて「ケトン体」と言う物質が作られます。
ケトン体は強力な酸性物質で、カラダを酸化させ、「ケトアシドーシス」と言う状態となって、以下のような緊急性の高い症状が見られるようになります。
元気がなくなる
食欲がなくなる
下痢
嘔吐
脱水
また、高血糖が長く続くと、目の水晶体が白く濁る白内障になることがあります。
犬の糖尿病【発症しやすい犬種】
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犬の糖尿病は、すべての犬種に発症の可能性がありますが、統計的には、他の犬種と比べてとくに以下の犬種の発症リスクが高いと言われています。
トイ・プードル
テリア種
4歳から老齢犬までが好発年齢で、発症のピークは中年以降(8〜9歳)です。
未避妊のメスの発症リスクが高いです。
犬の糖尿病【診断方法】
診断方法①【問診・身体検査】
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愛犬の食事の内容や食べている量、時間帯、食べ方、飲む水の量、おしっこの回数、いつからの症状かを問診し、身体検査によって、栄養状態や症状を確認します。
診断方法②【血液検査】
まず血糖値の測定を行います。
次に血糖コントロールマーカーであるフルクトサミンか糖化アルブミンの値を測定し、血糖値のコントロール状況を評価します。
診断方法③【尿検査】
尿糖やケトン尿の評価と細菌感染や膀胱炎がないかを調べます。
診断方法④【画像検査】
腹部レントゲン検査や超音波検査を行い、おもに併発疾患の有無を確認します。
犬の糖尿病【治療方法】
治療法①【インスリンの皮下投与】
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犬の多飲多尿や体重減少を改善し、白内障を予防するために、血糖値をコントロールします。
飼い主が1日に2回、インスリンを注射します。
治療法②【併発疾患の治療】
膵炎(すいえん)やクッシング症候群などの併発疾患があれば、その治療を行います。
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治療法③【避妊】
未避妊のメス犬の場合には、避妊の処置をします。
発情出血後の黄体期糖尿病では、避妊後にインスリン投与が必要なくなることもあります。
治療法④【食事療法】
基本的に、高たんぱく、低炭水化物、高繊維の食事を与えますが、犬が好んで食べられる食事を与え、必ず食べさせることを優先しましょう。
そして、決められた量の食事を、12時間おきに、量(g)を測って与えることが大切です。
犬の糖尿病【予防対策】
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予防法はありませんが、未避妊のメス犬の場合には、避妊することで発症リスクを抑えることができます。
また、健康診断などで、定期的に血糖値をチェックするようにしましょう。
犬の糖尿病【間違えやすい病気】
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副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
犬の副腎皮質機能亢進症(ふくじんひしつきのうこうしんしょう)とは、下垂体や副腎の腫瘍が原因となり、コルチゾールが過剰に分泌されます。
多飲多尿が見られます。また、毛が抜け、皮膚が乾燥するほか体に左右対称の脱毛ができます。
犬の糖尿病【まとめ】
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犬の糖尿病の原因は、インスリンが不足したり、インスリンが効かなくなることが大きな原因となります。
愛犬に糖尿病の症状がみられ心配な場合には、動物病院で獣医師に診てもらいましょう。
また、定期的に健康診断を受けることも愛犬の病気予防に役立ちます。
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