【獣医師監修】「犬のレプトスピラ症」原因や症状、なりやすい犬種、治療方法は?
犬のレプトスピラ症とは、世界中で発症が見られる細菌感染症の一種です。原因となるレプトスピラ菌はさまざまな動物に感染しますが、発症する数が多いのは圧倒的に犬。腎臓内に潜伏します。日本では発症例は減少しているものの、人にも感染する可能性があるので気をつけたい病気です。
更新日:
日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)獣医学部獣医学科卒業。
2010年に日本獣医生命科学大学大学院で犬および猫の慢性腎臓病の早期診断の研究で博士(獣医学)号を取得。
2011年から日本獣医生命科学大学に着任し、同時に付属動物医療センター腎臓科を担当。
【資格】
◇獣医師
犬および猫の腎臓病・泌尿器疾患、体液・酸塩基平衡を中心に診療、研究を行っている。
自宅で、自己主張が苦手なシェルティ(オス5歳)と、走り回るのが大好きなミックス猫(メス7歳)と暮らす。
【翻訳書】
「イヌとネコの腎臓病・泌尿器病-丁寧な診断・治療を目指して」Canine and Feline Nephroligy著 ファームプレス
目次
レプトスピラ症とは
StudioByTheSea/ Shutterstock.com
レプトスピラ症とは、ネズミなどの感染動物の尿を介して人にも感染する、人と脊椎動物(せきついどうぶつ)に共通する「細菌性人獣共通感染症(ズーノーシス)」です。
世界中で見られる「レプトスピラ菌」による感染症ですが、抗菌薬がよく効くので致死率は低いとされています。
日本では「家畜伝染病予防法」により、レプトスピラ症の犬を診察した獣医師は、都道府県知事に届け出る義務があります。
レプトスピラ菌に感染した場合、発症のしやすさが動物によって異なります。
犬は、牛や猫など他の動物に比べ発症率が高いので気をつけたいところです。
血清型は世界中で250以上もあり、予防するには型に合うワクチンを接種する必要があります。
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体内での潜伏先は腎臓です。
菌の株(タイプ)によって、腎臓疾患または肝臓疾患など、異なる症状が出てきます。
細菌に感染し、キャリア(保菌者)になった犬でも、必ずしも全頭が発症するわけではありません。
近年、首都圏での発症届け出数は年間数件、地方の方が若干多いようです。潜在的な感染数は、はっきりとはわかりません。
【参照元】厚生労働省「感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について」
レプトスピラ菌とは
「犬のレプトスピラ菌」の感染ルート
らせん状の形をしていることから、「らせん菌」とも呼ばれます。
長さは6~20μm(マイクロメーター)、直径は0.1μm。
温暖な気候、川や湖などの淡水、沼や水たまり、下水、湿った土壌の中などで繁殖し、数カ月にわたり生存可能な細菌です。
レプトスピラ菌の感染ルート
自然界の中でのレプトスピラ菌の感染経路は以下の通りだと考えられています。
「ネズミなどの野生哺乳動物の腎臓で保菌され繁殖」→「尿とともに細菌が排出される」→「温暖な地域の淡水の中で生息」→「人や動物への感染源」となります。
犬のレプトスピラ症【原因】
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レプトスピラ菌への感染
ネズミをはじめ感染した動物などの尿や尿を含んだ水、川や沼、土などに接触した場合、口から細菌が侵入する経口感染が主です。
怪我や皮膚疾患がある場合は、接触感染する可能性も。
また、ごくレアなケースですが、母犬が菌を保有している場合、胎盤から子犬への感染もあります。
また、すべての犬がキャリアになっても発症するわけではないですが、散歩中の公園やドッグランなどで、犬同士がふれあうことで感染する可能性もないとは言えません。
犬のレプトスピラ症【症状】
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犬のレプトスピラ症には、以下のような症状が見られます。
レプトスピラ菌が体内で繁殖する場所が腎臓です。
症状は菌株(タイプ)により異なり、発熱したり、出血したり、進行すると肝機能障害や腎障害などを発症することも。
子犬の場合や、ワクチンを一度も接種したことがない犬は、急激に体調が悪化し、敗血症や腎不全により死に至る場合があります。
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初期症状としては以下があげられます。
食欲不振
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元気がない
嘔吐する
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40度近い高熱が出る
多飲多尿
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症状が進むと、腎不全、肝不全などに発展する場合もあり危険です。
黄疸が出ている
脱力している
尿が出ない、脱水している
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犬のレプトスピラ症【発症しやすい犬種】
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犬のレプトスピラ症は、すべての犬種に発症の可能性がありますが、成犬よりも子犬が感染しやすいと言われています。
また、水が多い地域やネズミがいる場所での飼育環境、山や川で活発に動き回ることが好きな犬種である場合は、感染してしまう機会が多くなるでしょう。
犬のレプトスピラ症【診断方法】
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レプトスピラ症は体内に感染した菌を見つけるのが難しく、なかなか診断がつかない病気です。
感染してから発症するまでには1週間ほどかかりますが、体内に入ったレプトスピラが血中内で増えている「レプトスピラ血症」が最初に生じますが、通常の血液検査では見つかりません。
また、最も簡便な方法である、顕微鏡で尿中の細菌の確認は感染から2週間ほど経過しないと検出できないなど、細菌そのものをとらえるのが非常に困難です。
しかし、この感染症の問題は人間にも感染することで、それが最も問題になります。
“病気はまず感染症から疑え”(監修した獣医師の師匠の師匠の教え)というように、他の犬や人への感染を予防するためには早めの診断が必須です。
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近年ではより早期に特定できる遺伝子検査が普及しています。
高熱がある、血便が出るなどの症状からレプトスピラ症を疑う場合は、最初に尿検査や血液検査などを行うと同時に、この遺伝子検査を行ってもらう必要があります。
遺伝子検査(RCP法)
近年一般的になってきた、尿や血液からレプトスピラの遺伝子を検出する検査法です。
研究機関なら1~3日で検査結果が出るので、早急な対応が望めます。
抗体検査
発症後、8~10日間くらいで見つかる血液中の抗体の量を測定します。
感染した血清型を確実に調べることができます。
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顕微鏡法
尿を暗視野顕微鏡で観察し、感染したレプトスピラ菌を検出します。
発症後14日目くらいから検出可能です。
画像診断
X線検査、超音波検査により、腎臓が大きくなっていないか観察します。
レプトスピラ症の可能性があった場合は病院内で隔離をし、他の犬に接触させないようにします。
また、レプトスピラ症と確定した時点で、家の掃除や消毒をする必要も出てきます。
犬のレプトスピラ症【治療方法】
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抗生剤の投与
ペニシリン系の抗菌薬がよく効くため、飲ませることで体内のレプトスピラ菌はすみやかに消失し、体調も回復します。
キャリアになることを防ぐためにも、回復後も徹底的に抗菌薬を投与します。
排尿時にまきちらさないよう、腎臓から細菌を完全に除去していきます。
腎障害、肝障害に対しての治療
腎不全、肝不全を併発してしまっている場合は、輸液の点滴や透析などにより、腎肝機能を回復させます。
無尿性急性腎不全に至ってしまった場合には、血液透析を行わなければ、救命できないこともあります。
犬のレプトスピラ症【予防対策】
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ワクチンの接種
動物病院でのワクチン接種が可能です。
ただし、レプトスピラには多くの血清型が存在しているので、お住まいの地域や発症状況に合わせ、有効な種類のワクチンを獣医師と相談して決めましょう。
沼や河川、湿地帯での行動に注意する
たとえ発症していなくても、キャリアの動物や生物はどこにいるかわかりません。
不用意な水たまりや川への突入はさせないようにしましょう。
とくに大雨の後などはリスクが高まります。
湿地帯や河川、湖などでの活動、ネズミほか野生動物がいそうな場所での愛犬の行動に注意しましょう。
犬のレプトスピラ症と間違えやすい病気
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急性腎不全(急性腎臓病)
急性腎不全(急性腎臓病)とは、数時間から数日で腎臓の機能が急激に悪化し、機能不全に陥る病気です。
急性腎炎などの腎臓病や尿管結石等が原因です。
嘔吐や下痢のほか、進行すると尿毒症や痙攣(けいれん)を引き起こし、昏睡状態になる恐れもあります。
肝不全
肝不全(かんふぜん)とは、肝臓に重度の障害が起こり、肝臓の機能が停止する病気です。
初期は元気消失や体重減少、黒色の便が出る程度ですが、進行すると黄疸や腹水、血尿血便が現れ、昏睡状態に陥り、命を落とす危険もあります。
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