【獣医師監修】「犬の緑内障」原因や症状、なりやすい犬種、治療方法は?
犬の「緑内障 (りょくないしょう)」とは、眼球内部の圧力が高まり、再生のできない中枢神経の一つである視神経を圧迫することで最終的に失明してしまう病気です。残念ながら発症してしまうと、完治はできません。原因、症状、治療方法など病気について詳しく解説します。
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◇専門分野:「眼科・外科」
日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)大学院卒業
比較眼科学会・獣医眼科
アジア獣医眼科学会・獣医眼科
【資格】
◇獣医師
【所属】
◆比較眼科学会
◆公益社団法人 日本獣医学会
◆一般社団法人 日本獣医麻酔外科学会
【受賞歴】
比較眼科学会奨励賞 受賞
現在、日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医学科 獣医外科に所属。同大学付属動物医療センター の眼科獣医師。
獣医眼科学のプロフェッショナルとして、犬や猫の目の治療に従事している。好きなアーティストは葉加瀬太郎。
20頭以上の猫を救い供血猫を引退した中年のオスのサバトラ猫と、捕獲された地域猫でメスの三毛猫と同居中。
【著書】
「カラーアトラス よくみる眼科疾患58」interzoo
「眼科学―獣医学教育モデル・コア・カリキュラム準拠」interzoo
「伴侶動物の眼科診療」緑書房
「犬と猫の眼科診療Q&A」緑書房
など
犬の緑内障【原因】
RiumaLab/ Shutterstock.com
眼球の中は「房水・眼房水(ぼうすい・がんぼうすい)」と言われる透明な液体で満たされ、眼圧(眼球内の圧力)を一定に保っています。
この房水は「毛様体(もうようたい)」で作られ、「前眼房(ぜんがんぼう)」に流れ、「隅角(ぐうかく)」と呼ばれる部分から排出されることで、眼球内の房水の量を一定に保っています。
これが何らかの原因によって、房水の流れが阻害されると、排出されなかった房水が眼球内に滞り、眼圧が上がってしまいます。その結果、網膜や視神経が圧迫され、痛みや視覚障害が引き起こされるのです。
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眼圧が上がり、緑内障を発症する原因としては、以下のことが考えられます。
犬の原発緑内障(げんぱつりょくないしょう)
生まれつき房水が排水される隅角そのものに問題があり、房水がうまく排水されないために緑内障を発症します。
犬の続発緑内障(ぞくはつりょくないしょう)
隅角が何らかの疾患で圧迫されたり、炎症で詰まったりして眼圧が上がり発症します。
続発性緑内障の原因となる疾患としては、水晶体脱臼、特発性などのぶどう膜炎、前房出血、眼球内腫瘍、外傷などが考えられます。
犬の緑内障【症状】
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緑内障では、以下のような症状が見られます。
白目の部分が充血している
瞳孔の大きさが左右で異なる
瞳孔が緑色またはオレンジ色に見える(とくに夜)
目をショボショボさせている
涙を多く流すようになる
片目をつぶっている。目を閉じたまま開かない
眼球が大きくなっている ※犬の「牛眼(ぎゅうがん)」とも言います
柱や壁などにぶつかるようになる
段差につまずいたり、階段の上り下りを嫌がる
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犬の急性緑内障の場合
とくに急性緑内障の場合は、以下のような症状も見られます。
元気や食欲がない
眼をまぶしそうに閉じている
頭を撫でようとすると嫌がる
目が青白く見える
瞳孔の色が左右で違い、緑色またはオレンジ色に見える(とくに夜)
何らかの原因で急激に眼圧が上がる急性緑内障の場合は、痛みがとくにひどいため、飼い主が愛犬のしぐさや様子で異変に気づきやすいのですが、ゆっくりと眼圧が上がる慢性緑内障の場合は、飼い主が異変に気づくのが遅れがちです。
犬の片目が見えなくなっても、慣れた場所での行動から飼い主が失明していることに気づきにくく、両目の視覚が失われてから初めて気づくことが多いのです。
眼球が大きくなっていることや視覚障害などの症状に気づいた時には、すでに失明しているケースが少なくありません。
犬の緑内障【発症しやすい犬種】
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犬の原発緑内障になりやすい犬種
すべての犬種に発症の可能性がありますが、統計的には、他の犬種と比べてとくに以下の犬種の発症リスクが高いと言われています。
ビーグル
プードル
柴犬
アメリカン・コッカー・スパニエル
ゴールデン・レトリーバー
など
犬の続発緑内障になりやすい犬種
すべての犬種に発症の可能性があります。
犬の緑内障【診断方法】
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獣医師は、以下の方法で緑内障を診断します。
問診
飼い主から症状を聞きます。
全身性疾患の既往歴なども確認し、どのような点眼薬を使用しているかを確認します。
とくに、緑内障の目薬をすでに点眼している場合は、後述する眼圧検査で眼圧が高く出ないことがあります。
緑内障の診断ができないことがあるので、必ず何時に眼圧を下げる目薬を差したかということは、獣医師に伝えるようにしてください。
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視診・スリットランプ検査
問診の後、獣医師が犬の目に検査用のペンライトを当てて、目の状態や、光の反応などを確認します。
次に眼科検査用の検査器具がある病院では、スリットランプという検査器具を使って、目をさらに詳しく検査します。
眼圧測定
眼圧計で眼圧を計測し、眼圧が高いかどうかを確認します。
ただし、眼圧計を置いていない動物病院もあるので、眼圧検査が必要と判断された場合は、その設備がある病院を紹介してもらうことになります。
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眼底検査
目の奥にある網膜や視神経乳頭(ししんけいにゅうとう)のダメージ具合を検査します。
隅角検査(ぐうかくけんさ)
眼科専門の施設では隅角鏡を使って、隅角(ぐうかく)が狭いか開いているかを確認します。
おとなしい犬の場合は、局所麻酔で検査できますが、難しい場合は鎮静処置を施します。
隅角観察専用の超音波を使って隅角を評価することもあります。
このほか、続発性緑内障が疑われる場合には、その原因を究明するために、レントゲン検査や超音波検査、血液検査などが行われる場合があります。
犬の緑内障【治療方法】
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緑内障になったばかりの急性期は、治療によって視覚が戻る可能性があります。
しかし、発症してから何日もたっている慢性期の緑内障の場合は、すでに視覚が失われていることが多く、そうなると視覚の回復は望めません。
急性期と慢性期とでは以下のように治療の目的が異なります。
急性期→視覚を守るための治療
慢性期→痛みを取るための治療
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犬の原発緑内障の場合
犬の原発緑内障の初期治療は、点眼薬で眼圧を下げる
原発緑内障の治療は、まず点眼薬で眼圧を下げることからスタートします。
点眼薬でおもに使われるのは、眼球内に溜まって眼圧を上げる原因になっている房水を排出する作用をもつ薬です。
さらに、毛様体で房水を作らせないようにする薬を補助的に使います。
眼圧の上昇は、房水の排出口である隅角での流れが悪くなり排出されないことが原因で起こるので、まずは眼球内の房水の排出を促すことが大切なのです。
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犬の原発緑内障の急性期は、点滴治療
まずは点眼薬で眼圧を下げますが、点眼薬で眼圧が下がらない場合は、点滴で薬を投与します。
それでも眼圧の改善が見られない場合は、外科手術によって眼圧を下げようと図ります。
急性期の原発性緑内障の外科手術には、以下の方法があります。
房水の新たな排出口を作ることを目的にした手術
房水の産生を抑制する目的の手術
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犬の原発緑内障の慢性期は、外科的治療
点眼薬を中心とする内科的な治療や房水の排出や、先述した産生の抑制を目的とした外科手術を行っても、永続的に眼圧をコントロールするのは残念ながら不可能です。
いずれは視覚を失うことになってしまい、しかも、依然、眼圧のコントロールが効かない状態です。
よって、緑内障による痛みや不快感を完全に取り除くためは、視覚を失った眼球を手術で摘出する必要があります。
眼球摘出の手術方法については、後述します。
緑内障は片目ずつ発症しますが、原発緑内障は、いずれもう片方の目にも発生することがわかっています。
片方の視覚が残っているうちに、眼圧の管理を行い少しでも長く視覚を維持できるように治療を始めることが大切です。
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犬の続発緑内障の場合
犬の続発緑内障の急性期は、基礎疾患の治療
ぶどう膜炎や水晶体脱臼、腫瘍など眼圧が上がる原因となっている基礎疾患を突き止め、その治療をメインに行います。
犬の続発緑内障の慢性期も、外科的治療
基礎疾患の治療を行っても眼圧が下がらず、視覚を失った場合は、手術で眼球を摘出することになります。
眼球摘出の手術方法については、次に解説します。
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犬の緑内障の手術
慢性期の視覚のない眼についての手術には以下の3つがあります。これらの手術は緑内障による痛みなどの不快感を取り除く目的で行われる手術です。これらの手術は、かかりつけの病院で行うことができる場合があります。
犬の眼球摘出術
外科手術によって眼球を摘出します。
緑内障による痛みや不快感を取り除けるほかにも、術後にほかの目の病気が発生する心配がないというメリットがあります。
手術後、2週間程度で抜糸が終われば、あとは点眼や飲み薬などの投薬の必要もありません。
一方、眼球がなくなることで、外見上見た目が悪くなるというデメリットはあります。
また、眼球のない側は、ものにぶつかったりすることがあります。
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犬の強膜内シリコン義眼挿入術
角膜、強膜を残したまま、眼球内容物を摘出し、その代わりにシリコン球の義眼を内部に移植します。
緑内障による痛みや不快感などを取り除けること、見た目が保たれることのメリットがあります。
一方で、術後の管理が比較的たいへんで、手術後眼の状態が落ち着くまでに2〜3カ月かかり、その間、点眼治療が必要となります。
また、眼球摘出術と比べて費用も高額というデメリットがあります。
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犬の薬理学的毛様体破壊術
房水を作る毛様体を薬であえて破壊することによって房水を減らし、眼圧を下げる治療です。
特殊な器具や薬を必要とせず、短時間の全身麻酔や鎮静処置で治療できるので、犬のカラダへの負担が少ないこと、費用も抑えられることなどのメリットが挙げられます。
その一方で、薬の効果次第なので、確実性があまり高くないというデメリットがあります。
愛犬が緑内障の不快感から解放されるのが一番の目的ですが、これらの手術が適応できるかどうかは、眼の状態によっても変わってくるので、獣医師と相談してもっとも適切と思われる治療法を選択してください。
見えている眼の手術は、基本的に眼科の専門病院で行う手術です。
まだ視覚はあるけれども、点眼治療だけでは十分に眼圧が下がらない原発性緑内障の場合は、視覚を維持するために、以下の外科手術で眼圧を下げる必要があります。
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房水(眼房水)の新たな排出口を作ることを目的にした手術
緑内障インプラントと呼ばれる装置を眼に入れて、房水を、眼球の結膜の下に出す手術です。
メリットは房水を手術で確実に排出できるということです。
一方、デメリットとしては、手術費用が高額であること、インプラント装置が詰まってしまいうまく房水を排出できなくなってしまうこと、手術をしても緑内障が治るわけではなく、引き続き緑内障の点眼薬を使用し続けなくてはならないこと、などがあります。
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房水の産生を抑制する目的の手術
房水を作っている「毛様体(もうようたい)」という部分をレーザーを用いて破壊する手術です。
レーザーは眼球の外から当てる方法と、眼球の内側から内視鏡を使って当てる方法があります。
メリットは、毛様体を直接破壊することで、房水の産生量を抑えられることです。
デメリットは、毛様体が再生してくると効果がなくなることや、眼の内側からレーザーを当てる場合は水晶体を摘出する手術を同時に行う必要があり、術後管理が煩雑となり、手術費用もより高額となります。
なお、これらの手術をしても緑内障が治るわけではなく、引き続き緑内障の点眼薬を使用し続ける必要があります。
あくまで眼圧をなるべく正常範囲内でコントロールして、視覚を維持することが目的の手術であることを理解しておきましょう。
犬の緑内障【予防対策】
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残念ながら、緑内障を予防する方法はありません。
大切なのは、早期発見と早期治療。発症を早く発見すれば、病気の進行を緩やかにし、視覚を失うまでの時間を長く維持できる可能性もあるからです。
また先述したとおり、原発緑内障は、片目に発症した後、必ずもう一方の目にも発症します。
もう一方の目に緑内障を発症する前に点眼治療を始めたほうが、何もしない場合よりも発症を遅らせることができます。
犬の緑内障と間違えやすい病気
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結膜炎(けつまくえん)
結膜炎(けつまくえん)とは、目の結膜に炎症が起きる病気です。目の周りの毛による刺激、寄生虫や細菌やウイルスによる感染症、アレルギー、外傷などさまざまなことが原因となります。
まぶたが赤くなり、涙や目やにが出ます。
悪化すると角膜炎になることもあります。
上強膜炎(じょうきょうまくえん)
上強膜炎(じょうきょうまくえん)とは、白目である強膜の表面に炎症が起きる病気です。
免疫性の疾患で、白目の充血や目の違和感、痛みが現れます。
進行すると角膜が白く混濁するほか、強膜が薄くなり、ぶどう膜が透けて見えるようになることがあります。
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角膜炎(かくまくえん)
角膜炎(かくまくえん)とは、黒目の表面を覆う角膜が炎症を起こす病気です。
まつげの異常、外傷や異物、細菌やウイルスの感染症、結膜炎、乾性角結膜炎などの疾患によって起こります。
痛みによる涙の増加、目やにが現れ、重症の場合は、角膜が白濁したり、潰瘍が生じます。
角膜潰瘍(かくまくかいよう)
角膜潰瘍(かくまくかいよう)とは、目の角膜に潰瘍ができる病気です。
目が乾いたり、外傷や異物などで角膜が傷つき、目をショボショボさせたり、痛がったり、涙や目やにが出るようになります。
細菌感染により角膜に穴が開いて失明することがあります。
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角膜浮腫(かくまくふしゅ)
角膜浮腫(かくまくふしゅ)とは、角膜の上皮の傷や内皮の機能低下のため、角膜に多量の水が溜まり角膜が白く濁る病気です。
角膜炎や緑内障等と併発することもあり、目やにが増えたり、目をショボショボさせます。
さらに、視覚も低下するので注意が必要です。
一見すると濁りが、角膜なのか水晶体なのかはわかりません。
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