【獣医師監修】犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)原因や症状、なりやすい犬種、治療方法は?
犬の副腎皮質機能亢進症(ふくじんひしつきのうこうしんしょう)とは、副腎から分泌される糖質コルチコイド(主にコルチゾール)と言うホルモンが、慢性的に過剰に分泌されることで引き起こされる病気です。ここでは、副腎皮質機能亢進症の原因や症状、治療法について詳しく解説します。
更新日:
獣医保健看護学臨床部門准教授(獣医師)
【資格】
◇獣医師
日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)獣医学部獣医学科卒業。
2009年に日本獣医生命科学大学大学院で博士(獣医学)号を取得。
2012-2013年、イリノイ大学に留学。
現在、日本獣医生命科学大学付属動物医療センター内分泌化を担当。
犬および猫の内分泌分野を中心に診療、研究を行っている。
5歳のMix犬「ぽよ」と同居中。
目次
犬の副腎【機能・構造】
犬の副腎(外部構造)
犬の副腎は、腎臓に隣接する(左右一対)小さな内分泌器官です。
生命や血圧を維持するために欠かせない重要なホルモンを分泌しています。
犬の副腎(内部構造)
副腎は、副腎皮質(外側の組織)と副腎髄質(内側の組織)で構成されています。
副腎皮質は、炎症を抑えたりストレスを和らげる糖質コルチコイド(主にコルチゾール)や電解質をコントロールする鉱質コルチコイド(主にアルドステロン)などのステロイドホルモンを分泌します。
一方、副腎髄質は「エピネフリン」「ノエルエピネフリン」「ドパミン」などのカテコールアミンを分泌します。
カテコールアミンが分泌すると、血圧や心拍数が上昇します。
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)【原因】
otsphoto/ Shutterstock.com
コルチゾールは、副腎皮質ホルモンである糖質コルチコイドの一種で、ストレスから身を守り、血糖などのバランスを保つ重要なはたらきをしています。
コルチゾールの分泌が不足すると、「下垂体(かすいたい)」と言う生体の機能維持を司る脳の組織が「コルチゾールを出しなさい」と言う指令物質(ACTH、副腎皮質刺激ホルモン)を出します。
そして、この指令を受けた副腎が適量のコルチゾールを分泌するしくみとなっています。
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は、このサイクルのどこかに異常が生じて、ACTHと言う指令物質やコルチゾールが過剰につくられることによって発生します。
その原因のほとんどは、下垂体や副腎の腫瘍によるものです。
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原因①【下垂体腫瘍(下垂体腺腫)】
ACTHと言う指令物質を分泌する下垂体の細胞が腫瘍化することで、ACTHは慢性的に過剰分泌され、過剰なコルチゾールを放出します。
犬の副腎皮質機能亢進症(ふくじんひしつきのうこうしんしょう)の約90%が、この「下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)」と言う良性の腫瘍によって引き起こされるものです。
下垂体腺腫の原因はわかっていませんが、犬の老齢疾患のひとつと考えられています。
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原因②【機能性副腎皮質腫瘍(副腎皮質腺癌または副腎皮質腺腫)】
コルチゾールと言うホルモンを分泌する副腎皮質が腫瘍化すると、自律的に(指令を受けることなく)コルチゾールを過剰に分泌するようになります。
犬の副腎皮質機能亢進症の約10%が副腎皮質腫瘍によって引き起こされます。
原因③【医原性】
自己免疫疾患やヘルニアなどの痛みのコントロールのために、ステロイド薬(糖質コルチコイド製剤)の投与が長期間続けられた場合、医原性副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)を発症することがあります。
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)【症状】
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犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)には、以下のような症状が見られます。
多飲多尿
水を異常に欲しがり、おしっこの量が多くなります。
多食
異常な食欲を示す/食事を異常に欲しがります。
腹囲膨満(ふくいぼうまん)
腹腔内の脂肪が多くなり膨れた状態。「ポットベリー」とも呼ばれます。
脱毛
皮膚病
過剰なコルチゾールによって毛の発毛周期が休止期となります。
また、免疫力が抑制され、細菌やカビなどの感染症にかかりやすくなります。
皮膚の石灰化
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の特徴的な症状で、白く硬い石灰沈着、ガリガリ、ジャリジャリとした複数の突起が見られます。
このほか、定期的な健康診断(血液検査)で、ALPと言う数値が異常に高くなり受診した時に発見されるケースもあります。
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)【発症しやすい犬種】
日本獣医生命科学大学 動物医療センターにおける副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)初診時年齢
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は、すべての犬種に発症の可能性があります。
5歳以上で発生し、10歳前後に多いと言うデータがあります。
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)【診断方法】
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診断方法①【問診・身体検査】
問診と身体検査によって、症状を確認します。
診断方法②【血液検査】
血液中の「ALP」「ALT」「AST」「コレステロール」「中性脂肪」などの値を測定します。
診断方法③【レントゲン検査】
肝臓の腫れなどを確認します。
また、他の併発疾患が疑われる場合に実施します。
診断方法④【ACTH刺激試験】
合成ACTH製剤を投与し、投与前後のコルチゾール値を測定します。
投与後のコルチゾールの範囲はおおよそ5-15μg/dl前後ですが、この値が20を越えている場合には、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)を疑います。
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診断方法⑤【低用量デキサメタゾン抑制試験(LDDST)】
「デキサメタゾン」と言う強力なステロイド剤を投与すると、下垂体がこれを感知してACTHの分泌を抑制し、血中コルチゾール値が低下します。
デキサメタゾン投与前と投与後8時間に採血をしてコルチゾール値を測定します。
コルチゾールの投与後8時間の値が1.5μg/dlを越えていれば、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)と診断します。
ただし、8時間という長時間にわたって病院内に拘束された環境においては、ストレスによってACTHやコルチゾールの値が上昇することから、偽陽性が出やすいというのもこの検査の特徴です。
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診断方法⑥【副腎超音波検査】
超音波による画像検査で、副腎の描出を行います。
左右一対の副腎が同様に腫大している場合には、下垂体腫瘍を疑い、片側だけが腫大している場合には、副腎腫瘍を疑います。
また、肝臓の腫大や胆嚢(たんのう)における胆泥(たんでい:胆汁が濃くなったり泥状になったもの)の貯留が認められることがあります。
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診断方法⑦【血漿ACTH濃度】
血液中のACTH濃度を測定します。
値が上昇している場合には下垂体腫瘍を疑い、値が低下している場合には、副腎腫瘍を疑います。
診断方法⑧【下垂体の画像診断】
初診時から元気消失、食欲不振、震え、ふらつき、異常行動、旋回などの神経症状を示している場合には、下垂体腫瘍が大きくなって、脳内の組織を圧迫している可能性があります。
麻酔下でMRI検査を実施し、下垂体腫瘍の存在とその大きさを確認します。
診断方法⑨【胸腹部CT検査】
犬の副腎に生じた腫瘍が手術によって摘出可能かどうかをチェックするために実施することがあります。
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)【治療方法】
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治療法①【下垂体腫瘍の治療】
犬の下垂体腫瘍が小さな場合には、副腎からのコルチゾール産生を抑制する内科療法(トリロスタンの投与)を実施します。
神経症状などがあり、下垂体腫瘍が巨大化している場合には、腫瘍を小さくするために放射線治療を行うことがあります。
このほか、外科手術(腫瘍を含む下垂体の摘出)を行うこともあります。
治療法②【機能性副腎皮質腫瘍の治療】
外科手術を第一に検討し、腫瘍化した副腎を摘出します。
ただし、とくに右の副腎腫瘍の場合は、後大静脈との距離が短く、はりついて存在することも多いため、難しい手術になります。
副腎腫瘍が悪性の副腎皮質腺癌の場合は、血管に浸潤しやすく、うっ血させて、腹水が溜まったり、後大静脈を押しつぶして血栓が発生しやすくなります。
また、副腎皮質腺癌は、肝臓やリンパ節に転移することもあり、転移がある場合には、手術の選択はせずに、内科療法を行います。
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)【予防対策】
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副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の予防法は確立されていませんが、ストレスをかけないように生活することが大切です。
また、疑わしい症状がある場合には、早急に獣医師の診断を受けましょう。
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)【間違えやすい病気】
Jaromir Chalabala/ Shutterstock.com
とくにありません。
犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)【まとめ】
Madphotos / PIXTA(ピクスタ)
犬の副腎皮質機能亢進症(ふくじんひしつきのうこうしんしょう)は、副腎から分泌される糖質コルチコイド(主にコルチゾール)と言うホルモンが、慢性的に過剰に分泌されることで引き起こされる病気です。
「多飲多尿」「脱毛」「皮膚病」など、犬の副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の症状がみられた場合には、速やかに動物病院で獣医師に診てもらいましょう。
また、健康診断を受けることで愛犬の病気を早期に発見することが可能になるので、定期的に動物病院で検診をうけることをおすすめします。
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