【獣医師監修】犬は熱中症になりやすい?初期症状や後遺症、応急処置、治療法、予防対策!
犬は人間よりも熱中症になりやすい動物です。熱中症はあっという間に重症化する恐れがあり、命にも関わるので要注意。犬の熱中症の原因から初期症状、後遺症、予防法や対策グッズ、熱中症になってしまった場合の応急処置や対処法などを心得て、愛犬の健康と命を守ってあげましょう。
更新日:
東京城南地域獣医療推進協会 理事
【経歴】
◇1986年 北里大学獣医畜産学部獣医学科 卒業
◇1990年~1991年 New York州Animal Medical Centerにて研修
◇1993年 成城こばやし動物病院 開業
◇2012年~2022年6月(公社)東京都獣医師会 副会長
【資格】
◇獣医師
【所属】
◆公益社団法人 東京都獣医師会
◆アジア小動物獣医学会(FASAVA) 所属
◆一般社団法人 東京城南地域獣医療推進協会TRVA 理事
【メディア】
◇Webメディア
「オトナンサー」アドバイザー
【hotto Professionalインタビュー】
Professionalインタビュー Vol.1【成城こばやし動物病院代表 小林元郎先生】
目次
犬が熱中症になる原因や症状(初期症状・重度)、サインは?
アオサン / PIXTA(ピクスタ)
人間は汗で放熱をして体温を下げることができますが、犬は足裏でしか汗をかけません。
そのため身体に熱が溜まると、「パンティング」と呼ばれるハァハァという口呼吸で放熱を行います。
パンティングは汗による放熱より効率が悪いため、犬は、熱障害で生じる全身性の病状である熱中症にかかりやすいのです。
犬の熱中症【初期症状】は?
犬の熱中症の初期症状は、”呼吸が荒くなる”こと。
ごく短時間、口呼吸をして収まるならば問題ありませんが、ハァハァと苦しそうな呼吸が継続するようであれば、熱中症の可能性があります。
体内の酸素濃度が低下している場合は、舌の色が紫っぽくなる「チアノーゼ」の状態も確認できるでしょう。
熱中症が中程度に進行すると、よだれや目の充血などが現れます。
犬によっては、落ち着かない様子を見せたり、逆に立てないでぐったりとした様子になる例もあります。
犬の熱中症【サイン】は?
アオサン / PIXTA(ピクスタ)
”発熱”も犬の熱中症のサイン。
体温が上昇すると胃腸障害により、
犬の熱中症【サイン】
【症状】 | |
---|---|
熱中症のサイン① | 嘔吐 |
熱中症のサイン② | 下痢 |
熱中症のサイン③ | 血便 |
などの症状が出ます。
さらに重度になると、
犬の熱中症【重度の症状】
【症状】 | |
---|---|
重度の症状① | 高熱 |
重度の症状② | 血尿 |
重度の症状③ | 痙攣(けいれん) |
重度の症状④ | 意識不明 |
重度の症状⑤ | 呼吸困難 |
などの症状に陥ります。
最終的には「多臓器不全」や「ショック症状」で命を落とす可能性も低くありません。
犬の熱中症は進行が早く、処置が遅れると死亡率がぐっと上がるのが怖いところ。
簡単に例えて表現すれば、身体に溜まった熱により臓器が“ゆで卵”の状態になってしまう病状が熱中症です。
手遅れになると、もとの“生卵”の状態には戻りません。
初期症状に気付いた段階で愛犬の身体を速やかに冷やし、それでも荒い呼吸が収まらなかったら急いで動物病院へ向かってください。
犬が熱中症になりやすい温度(何度から)や湿度、季節、場所(屋内・屋外)は?
masa / PIXTA(ピクスタ)
犬の熱中症は、高温に加えて”多湿”な環境も発症リスクを高める要因になります。
犬種によって、また、犬のライフステージによって、同じ環境でも発症リスクは異なります。
犬がいる環境が20℃でも、雨の日のように湿度が高ければ熱中症にかかるリスクは低くありません。
最高気温25℃、湿度30%の日でも熱中症を発症した犬もいます。
また、身体が暑さに慣れていないゴールデンウイークあたりから、熱中症で動物病院に運ばれる犬が増えてきます。
Nynke van Holten / PIXTA(ピクスタ)
「フレンチ・ブルドッグ」「パグ」「シー・ズー」などの”短頭種”は呼吸による放熱が得意ではありません。
そのため、熱中症には特に注意が必要です。
また、子犬や老犬は体力がないため、どの犬種でも熱中症にかかりやすいと言えるでしょう。
屋外であっても、屋内であっても、高温多湿であれば熱中症を発症する危険性があります。
油断をせず、予防対策をしっかりと講じましょう。
犬が熱中症になると死亡したり後遺症が残る可能性がある?繰り返す場合は?
アオサン / PIXTA(ピクスタ)
犬の熱中症【後遺症】が残る可能性は?
犬が熱中症になり、死亡することも珍しくありません。
命を落とさずにすんでも、臓器が熱によってダメージを受け、さまざまな後遺症が残る可能性もあります。
脳に障害が残れば、歩く際にふらつく、首を傾けて歩くといった後遺症が出現するでしょう。
慢性の腎不全や肝機能障害が後遺症になってしまうケースもあります。
polkadot / PIXTA(ピクスタ)
犬の熱中症【繰り返す】場合は?
一度でも熱中症になった犬は、繰り返して熱中症にかかりやすい傾向にあると言われます。
気温が低い梅雨時でも、室内の湿度が50%を超えていればエアコンの除湿機能や冷房を利用して湿度を下げるなど、愛犬がいる環境の湿度と温度を常に低く保つように心を配ることが重要です。
なお、扇風機は、犬にとっては熱中症対策になりません。
扇風機の風は人間の汗を乾きやすくして放熱を促す効果はありますが、犬は汗をかかないからです。
熱中症を繰り返したり、発症リスクの高い愛犬には、必ずエアコンを使用してください!
犬が熱中症になってしまった場合の応急処置と治療法は?治療費はいくらかかる?
Beton Studio / PIXTA(ピクスタ)
犬の熱中症【応急処置】の仕方は?
愛犬に熱中症が疑われる場合、一刻も早く応急処置ができるかどうかが、その後の回復度合いのカギを握ります。
初期症状である荒い呼吸に気付いたら、涼しい場所に愛犬を移動させましょう。
屋外であれば「木陰や建物の陰」に愛犬を連れて行き、マイカー内や室内であれば「エアコン」を”最低温度”に設定してください。
保冷剤や氷で、愛犬の身体を冷やすのも体温を下げるのに役立ちます。
犬の熱中症【冷やす部位】は?
冷やす場所は、後肢の付け根の鼠径部(そけいぶ)や首回りなど、太い血管が通っているところ。
凍った保冷剤を当て続けると冷えすぎるので、保冷剤や氷はガーゼハンカチなどで巻き、10~20秒ごとに当てる場所を変えましょう。
保冷剤や氷がなければ、濡れタオルを愛犬の首や身体全体に巻くのも良いでしょう。
屋外の公園やドッグランなどにいる時に熱中症になった場合、愛犬の身体に水をかけるのも応急処置になります。
C-geo / PIXTA(ピクスタ)
もし愛犬用の体温計があれば、肛門に体温計を入れて直腸温を測ってください。
体温が40度を超えているようであれば、愛犬の身体を濡れタオルなどで巻いて冷やしながら、冷房を効かせた車を利用して動物病院へ向かい、獣医師による処置を早急に受けることが重要です。
犬の熱中症【治療法・治療費】は?
愛犬が熱中症だと診断されたら、多くのケースで入院をして治療を行います。
輸液や栄養剤を点滴しながら、対症療法を行うことになるでしょう。
愛犬が熱中症と判断された場合、日帰りできるケースもあれば、1週間ほどの入院治療が必要になるケースも。
当然、入院期間や行った治療内容によって治療費は異なります。
1泊の入院費と治療費(血液検査などを含む)で、地域や動物病院により異なりますが東京都内では2万円~となります。
犬が熱中症から回復する期間や予防対策、グッズは?
mon / PIXTA(ピクスタ)
犬の熱中症【回復期間】は?
熱中症からの回復に要する期間は、重症度、その犬の体力などによって異なります。
子犬や老犬の場合は基礎体力が成犬よりも低いことが多いので、回復に時間がかかるケースが多いでしょう。
また、成犬でも基礎疾患などがある場合は回復に時間がかかると考えられます。
犬の熱中症は命に危機が及ぶ恐ろしい病気である一方、飼い主さんが注意しておけば防げる病気です。
愛犬を熱中症にしないように万全な対策を講じましょう。
犬の熱中症【予防対策】は?
evrmmnt / PIXTA(ピクスタ)
室内での犬の熱中症対策は、エアコンを活用しての湿度と温度の管理が欠かせません。
除湿機能を使わなくても、冷房でも室内の湿度は低くなるので、愛犬の居場所が「25度以下(短頭種であれば21~23度)」で、湿度も低い状態になるように設定をしましょう。
サーキュレーターを併用して、涼しい空気が室内を循環するように工夫すれば最良です。
飼い主さんの留守番時や就寝時も、エアコンをつけたままにしておくのが重要です。
犬の熱中症【おすすめのグッズ】は?
室内でおすすめの冷却グッズとしては、アルミで大理石でできたクールマットが挙げられます。
ドッグベッドに冷感ケットをかぶせたり、夏期だけ冷感ラグを敷くのも良いでしょう。
犬の熱中症、散歩などの外出時の予防対策は?
pearlinheart / PIXTA(ピクスタ)
近年では柴犬などの日本犬でも室内飼育が主流になっていますが、ここでは、外出時の室外での熱中症対策をご紹介します。
犬の熱中症【夏の散歩の時間】は?
熱中症の危険性がある夏期の愛犬の散歩は、日の出から1時間以内と日没1時間前以降の涼しい時間帯がベストです。
とはいえ、それがむずかしい場合、まずはコンクリートに飼い主さんの手の平を15秒ほど当ててみて手が熱いと感じたら、散歩は控えるようにしてください。
地面近くはコンクリートからの熱を跳ね返して50度以上になることもあるため、危険を感じた時も同様に、愛犬の散歩はやめておきましょう。
犬の熱中症【夏の散歩のおすすめグッズ】は?
夏季の愛犬の散歩には、保冷剤と水が必携です。
ハンカチに包んだ保冷剤を、信号待ちなどのタイミングで愛犬の鼠径部(そけいぶ)にあてると体温の上昇を防げます。
こまめに水を飲ませるのも、脱水症状を予防するために必要です。
さらに、冷感ウェアを着せたり、保冷剤を仕込めるバンダナやハーネスなどの熱中症対策グッズで利用できそうなものは、積極的に取り入れましょう。
犬が熱中症になった際の食べ物は?塩分は必要?
Madphotos / PIXTA(ピクスタ)
愛犬に熱中症の初期症状が疑われたら、脱水症状を防ぐために水を飲ませてください。
けれども、元気を失って水を飲まないかもしれません。
その場合、麦茶などの味がついたものを差し出すと飲む可能性があります。
人間ではスポーツドリンクなど塩分(ナトリウム)の含まれたものを熱中症対策として飲みますが、犬には塩分やスポーツドリンクは必要ありません。
そもそも犬は汗腺が人間のように発達しておらず汗をほとんどかかないため、汗で体内の塩分などが蒸発してしまうことはないからです。
けれども、普通の水を飲まないケースで、飼い主さんがたまたまスポーツドリンクを持っていたら、水で3倍以上に薄めて愛犬に与えてもかまいません。
また、身体を冷やす作用のあり水分豊富なきゅうりなどを愛犬にかじらせるのも良いでしょう。
犬の熱中症のまとめ
ホタル / PIXTA(ピクスタ)
犬は、人間より熱中症になりやすい身体の仕組みをしています。
熱中症は病状の進行がとても早く、愛犬の命を奪う可能性があります。
飼い主さんは熱中症予防に努めると同時に、熱中症が疑われる場合はすぐに処置をするのが重要です。
愛犬の健康を守ることができるのは、飼い主さんだけだと心得ておきましょう。
正しい知識を持って、毎日の愛犬の生活に役立ててくださいね。
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