【獣医師監修】愛犬が嘔吐…何に気を付ければいいの?原因は?人間用の市販薬を飲ませても大丈夫?
犬の嘔吐、飼い主さんは心配になりますよね。犬の嘔吐にはどのような原因があるのでしょうか?今回は、犬が嘔吐をしてしまった時の原因や症状、注意点、吐き気止めの種類などについて詳しく解説します。
更新日:
獣医師、博士(獣医学)
【学歴・経歴】
麻布大学獣医学部獣医学科卒
動物病院の勤務医に従事した後、
東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号(獣医学)を取得。
製薬会社勤務を経て2012年より麻布大学獣医学部に赴任。
【専門】
◇臨床薬理学
【主な研究内容】
・動物薬の前臨床研究
・ドラッグリポジショニング
・実験動物福祉(麻酔、鎮痛)
【資格】
◇獣医師
【受賞歴】
◇2009年 日本獣医内科学アカデミー 学術奨励賞
【飼っている動物】
トイプードル、雑種犬、パグ、猫
【動物への想い】
動物薬の研究を通して、動物たちの健康に貢献することを目標にしています。
【主な著書】
◆「犬と猫の治療ガイド」2015.
◆「ビジュアルで学ぶ伴侶動物解剖生理学」2015.
◆「臨床薬のトピックス.臨床薬のQ&A」infovets. 2019.
◆「猫の消化器薬1-嘔吐の治療薬ー」Felis 2019.
◆「臨床薬のトピックス. カプロモレリン~獣医療における新しい食欲増進剤~」. infovets 2018.
◆「薬のかたち-経口薬の剤型と特徴」 infovets. 2018.
◆「臨床薬のトピックス. 第1回」ドラッグリポジショニング ①」infovets 2018.
◆「抗がん剤の副作用に挑む. 1. 消化器毒性」. infovets. 2018.
◆「これ、こんな病気です」 病名別 Informed Consent. 犬の急性膵炎. Vet i. 2017.
◆「臨床現場での制吐剤、催吐剤の使い方」CAP. 2018.
◆「一目でわかる症候シリーズ 薬剤/中毒に起因する嘔吐」SA medicine. 2015.
◆「一目でわかる症候シリーズ. 嘔吐①.胃の運動障害 (アトニー)」 SA medicine. 2015.
◆「消化器薬のアップデート -嘔吐、食欲不振の効率的な管理-」. CAP 2014.
目次
犬の嘔吐【原因や症状は?】
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犬はよく吐く動物といわれています。
しかし、繰り返し吐いたり、ぐったりしてきたりすると本当に心配になりますよね。
犬の嘔吐にはどのような原因があるのでしょうか?
愛犬が吐いたら…【まず確認しておくこと】
犬の嘔吐の原因は様々なものがあります。
中には緊急対応が必要なケースもあるため、まずはかかりつけの獣医師に相談をしましょう。
獣医師と相談するうえで、以下のことをまとめておくと話がスムーズになります。
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【動物病院でよく聞かれることリスト】
① 犬の嘔吐が見られた時刻 | 【いつから?】 |
② 犬の嘔吐の回数とタイミング | 【食後か空腹時か?】 |
③ 犬の嘔吐の内容 | 【食べ物か胃液か、血液が混じっていないか?】 |
④ 犬の嘔吐以外の症状 | 【食欲不振、下痢など】 |
⑤ 現病歴、過去にかかったことのある病気 | 【特に胃腸の病気】 |
⑥ 最近、誤飲・誤食がなかったか | 【おもちゃ、家庭用品、人の薬など】 |
犬の嘔吐【どうして起こる?】
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犬の嘔吐は脳にある「嘔吐中枢」が様々な要因に刺激されることで生じます。
嘔吐中枢が刺激されると、胃に逆流運動が生じて横隔膜や腹筋が収縮し、胃の内容物を口から吐き出す仕組みです。
嘔吐する様子を見ていると、犬のお腹が収縮する様子がわかります。
また、嘔吐の前の犬は落ち着きがなくなる、よだれが出る、口をくちゃくちゃするなどの前兆がある場合もあります。
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嘔吐を起こす原因には様々なものがあります。
【嘔吐の原因】 | |
---|---|
嘔吐の原因① | 胃腸の病気 |
嘔吐の原因② | 異物の誤飲・誤食 |
嘔吐の原因③ | 薬物 |
嘔吐の原因④ | 食べ過ぎ・フードの変更 |
嘔吐の原因⑤ | 乗り物酔いなど平衡感覚の乱れ |
嘔吐の原因⑥ | ストレス |
嘔吐の原因⑦ | その他の臓器の異常(脳・肝臓・腎臓) |
嘔吐は苦しそうに見えるのでよくないことばかりのように思えますが、毒物や腐敗物を食べてしまったときの防御反応でもあります。
しかし、嘔吐が続くと、脱水を生じ体力も低下してしまいます。
【参照元】 犬の家庭医学 共立製薬編 石田卓夫監修 幻冬舎 p.132-
iStock.com/Irina Stolyarova
犬の嘔吐の原因①【胃腸の病気】
胃腸炎や胃腸のがん、胃潰瘍などによって嘔吐が起こります。
犬の胃腸炎は嘔吐の原因の中でも比較的多い部類に入ります。
幼弱犬では、パルボウィルスが原因で胃腸炎を起こすことがあります。
そのほか、細菌や寄生虫の感染でも胃腸炎が見られることがあり、嘔吐の一因になります。
犬で見られる胃腸炎の中には慢性腸症という病気があり、嘔吐と下痢が一緒に見られることがあります。
胃腸の癌(がん)はまれに犬でも見られることがあります。
胃腸の癌(がん)を診断する上では、エコー検査や内視鏡検査などが必要になります。
腸の腫瘍が大きくなると、腸の中を腫瘍が塞いでしまい、腸閉塞を起こすことがあります。
犬では人間でみられるような胃潰瘍はあまり多くありませんが、胃潰瘍があると吐物に血が混じることがあります。
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犬の嘔吐の原因②【異物の誤飲・誤食】
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愛犬がおもちゃなどの異物を飲み込むことで胃粘膜に傷が付いて、嘔吐が起こります。
異物で食道や腸が閉塞すると元気がなくなり食欲も低下しがちです。
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チョコレートやキシリトール食品や、洗剤・観葉などの植物などの家庭用品、湿布(インドメタシン、ロキソプロフェンなどを配合)などの医薬品の誤飲・誤食でも嘔吐が見られます。
(これらを誤飲・誤食したとしても必ずしも症状が見られるわけではありません。)
誤飲・誤食した量がわかれば記録しておきましょう。
異物が原因で吐いているときは、吐き気を止めるのでなく、異物を体外に出すために吐かせる処置を行う場合があります。
異物の誤飲・誤食は緊急性を要する場合があるので、早めに獣医師に相談しましょう。
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犬の嘔吐の原因③【薬物】
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治療のために処方されている薬の中には、嘔吐を起こすものがあります。
代表的なものには抗がん剤、抗生物質、抗炎症薬、免疫抑制薬などがあります。
抗がん剤は嘔吐を起こす頻度が高いことが知られています。
そのため、がんの治療で抗がん剤を投与する際には、あらかじめ制吐剤を処方されるケースがあります。
抗生物質の中には嘔吐を起こしやすい薬もあり、使用中に嘔吐があった場合、別な抗生物質に変更することがあります。
ステロイドや消炎鎮痛薬などの抗炎症薬を投与すると胃の粘膜が荒れることがあり、嘔吐の原因となります。
免疫抑制薬のシクロスポリンはアトピー性皮膚炎の犬に飲ませることがありますが、飲みはじめに嘔吐がしばしば見られます。
犬の嘔吐の原因④ 【食べ過ぎ・フードの変更】
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一度に食べ過ぎると胃もたれを起こし、吐いてしまうことがあります。
日ごろからがっつきやすく吐きやすい犬には少しずつ与えるようにしましょう。
とくに脂肪分の多い食べ物を食べさせると、腸からコレシストキニンという物質が出て胃の動きを悪くし、その結果として吐くことがあります。
ドッグフードによって栄養分の配合が変わるため、フードの変更時には嘔吐が起きないか、便が緩くならないかなどを確認しましょう。
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犬の嘔吐の原因⑤【乗り物酔いなど平衡感覚の乱れ】
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犬も人と同じように乗り物酔いすることがあります。
しだいに慣れていくケースが多いですが、ひどい乗り物酔いに対しては、吐き気止めを使用することがあります。
愛犬との旅行の時など長時間車に乗せる時は事前に薬を飲ませておくと安心です。
犬の嘔吐の原因⑥【ストレス】
恐怖や不安、ショックなことあった場合や、外傷を受けたことによるストレスも嘔吐の原因になります。
ただし、ストレスがかかっているからといって必ず吐くわけではありません。
犬の嘔吐の原因⑦【その他の臓器の異常(肝臓・腎臓・脳)】
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胃腸以外の病気でよく吐くことで有名な病気には急性膵炎があります。
急性膵炎では嘔吐の症状が強く、1日に何度も吐いたり、元気がなくなることがあります。
急性膵炎かどうか調べる上では動物病院で詳しい検査が必要になります。
そのほか、肝臓の病気や腎臓病が進行すると嘔吐が見られます。
また、脳の異常や内分泌の病気(アジソン病)、子宮蓄膿症などでも嘔吐が見られる場合があります。
【参照元】WASHINGTON STATE UNIVERSITY「Vomiting pets」
犬の嘔吐【人間用の吐き気止めや市販薬を飲ませても大丈夫?】
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人間用の薬を愛犬に与えてはいけません。
嘔吐して辛そうな愛犬を見ると「なんとかしてあげたい」と思うもの。
動物病院に行く前に嘔吐だけでも止めたいという思いで、人間用の薬や市販薬を飲ませてはどうかと思うかもしれません。
特に「小さなお子さんも飲める人間用の吐き気止めなら愛犬に飲ませても大丈夫なのでは?」と思うかもしれませんが、人間用の薬を愛犬に与えてはいけません。
そもそも人間と犬は代謝が異なります。
人間と犬で共通で使われている薬もありますが、薬の用量が異なり、また犬では効果がわかっていない人薬もたくさんあります。
また、吐き気止めには様々なタイプのものがあり、選び方を間違えると逆に悪化させてしまうこともあります。
獣医師から処方された薬以外は自分の判断で飲ませないようにしましょう!
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動物病院で処方される吐き気止め【どんな薬があるの?効くまでの時間は?】
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ここで、具体的に犬の吐き気止めにはどのような効果と種類の薬があるのか見てみましょう。
吐き気止め「種類」①【制吐剤:吐き気・嘔吐を抑制】
マロピタント(製品名:セレニア)やメトクロプラミド(製品名:ボミットバスター)は「嘔吐中枢」に作用して嘔吐を抑える薬です。
これらの制吐剤は効きが強く、即効性もあります。
吐き気止め「種類」②【消化管運動改善薬:胃腸の運動機能を調整】
消化管の動きが悪くなると、食物がうまく輸送されなくなることで胃もたれを起こします。
消化管運動改善薬は弱っている消化管の運動機能を調整、改善する薬です。
代表的な薬にモサプリド(製品名:プロナミド)があります。
消化管運動改善薬は嘔吐だけでなく、食欲の改善にも有効です。
消化管運動改善薬は腸閉塞がある場合には使うことができません。
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吐き気止め「種類」③【胃酸分泌抑制薬・胃粘膜保護薬:荒れた胃粘膜を修復】
胃の粘膜が荒れると嘔吐の原因になることがあります。
ファチモジン(製品名:ガスター)やオメプラゾール(製品名:オメプラール)などの胃酸分泌抑制薬は、胃酸の分泌を抑え胃壁を保護する作用があります。
また、スクラルファート(製品名:アルサルミン)は胃粘膜の保護をする薬です。
これらの薬は空腹時の嘔吐、胃潰瘍が原因の嘔吐に有効です。
その他、細菌感染が原因の場合は抗菌薬を、食欲の低下や下痢がある場合はそれぞれ食欲増進剤や下痢止めなどを、状況に応じて使用します。
肝臓や腎臓、その他さまざまな病気が原因で嘔吐が起こります。
犬の嘔吐の原因となるもとの病気を治療することで、嘔吐の症状も改善することが多いです。
薬の種類によって、投与回数や効き始める時間が変わります。
たとえば、マロピタント(セレニア)は1日1回の投与でよいとされていて、投薬してから1時間で効果が出るとされています。
薬の効き方は症状や個体差によって変わるため、詳しい内容を知りたい場合には、動物病院で確認するようにしてください。
【参照元】塚本篤士 臨床現場における制吐剤と催吐剤の使い方. CAP. 2018. p7-19.
犬の吐き気止め【いつからいつまで必要?】
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愛犬に嘔吐薬を飲ませる期間ですが、自己判断せず、獣医師の指示に従うことが重要です。
嘔吐が改善されたとしても、勝手に薬を中断することはやめましょう。
乗り物酔に対しては、予防として乗車1~2時間前に服用させることが多いです。
酔ってから服用する場合もありますが、その際も獣医師の指示に従いましょう。
犬の吐き気止め【動物病院での検査は必要?】
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犬の嘔吐の原因を突き止めるために、様々な検査を行うことがあります。
特に「繰り返し嘔吐する」「下痢を伴う」「嘔吐物に血が混ざる」「お腹を痛がっている」「元気がない」「子犬や老犬」などの場合は詳しい検査が必要です。
一般的な動物病院での検査は次の通りです。
血液検査
レントゲン検査
内臓の病気や異物の誤飲・誤食がないかを確認します。
胃腸に詰まっているところがないか確認するために、バリウムを飲ませることがあります。
超音波検査
内視鏡検査
異物がある場合は、検査と同時に内視鏡で取り除くことも。
また、病気を診断するために胃腸の組織を一部とって検査することがあります。
胃の内視鏡検査は全身麻酔をかけて行います。
糞便検査
尿検査
犬の状態や症状によっても異なるので、不明な点は獣医師に相談しましょう。
犬の吐き気止め【種類・回数は?】
内服薬では、錠剤・カプセル・シロップ・粉剤などの種類があります。
犬の体重や年齢、嘔吐の状況によって、処方される量や回数は異なります。
獣医師の指示に従って服用させましょう。
愛犬がうまく飲んでくれない、吐いてしまうというときは動物病院に問い合わせましょう。
飲み薬では吐いてしまう場合、注射薬を使うことがあります。
吐いたからといって、勝手に薬を追加することはやめましょう。
犬の吐き気止め【与え方や飲ませ方は?】
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錠剤など飲み薬は犬に与えやすいよう、おやつやフードでくるんで与えたり、混ぜて与えたりします。
しかし嘔吐している犬に薬を飲ませるのは大変かもしれません。
吐き気止は注射薬もあります。
投薬が難しければ獣医師に相談してみてください。
犬の嘔吐【どれくらいで治まるの?】
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犬の嘔吐はおおよそ3日以内に治まる「急性嘔吐」と、長期間続く「慢性嘔吐」に分けることができます。
犬では急性嘔吐のケースが多いですが、慢性の病気が原因の場合は、長期間嘔吐の症状が続くことがあります。
犬の嘔吐【まとめ】
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犬が嘔吐すると、飼い主さんは一刻も早く治してあげたいものです。
「元気でも何度も嘔吐する」「ぐったりしている」「嘔吐物に血が混ざる」などの心配な嘔吐は、まず動物病院受診してください。
自己判断で人間の薬や市販薬を服用させないことも大切です。
そして動物病院で処方された薬を、獣医師の指示に従って適切に服用させましょう。
犬が嘔吐して、服用させることが難しい場合や、うまくいかないとき、また、薬を飲んだあと吐いてしまった際には、早めに動物病院に相談してください。
【獣医師監修】老犬が吐く、嘔吐を繰り返す原因や理由は?対処・治療法、治療費、予防対策は?
老犬が吐く時、一過性で心配のないものもあれば、腎不全や膵炎(すいえん)、突然に発症する前庭疾患など気をつけたい病気の場合もあります。老犬はちょっとしたことで体調を崩しやすく、また、病気の進行も早いと言われるので、嘔吐についても原因や症状など基本情報を知っておきましょう。
【獣医師監修】犬の食欲不振・犬が食べない。考えられる原因や対処方法は?
「食欲不振」「嘔吐」「下痢」は、飼い主がすぐに気づいてあげられる愛犬からの3大「不調サイン」と言われています。食欲がない状態を見過ごさずに、適切に対処することが大切です。
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