【獣医師監修】「犬の尿路感染症」原因や症状、なりやすい犬種、治療方法は?
「犬の尿路感染症 (にょうろかんせんしょう)」とは、泌尿器が細菌感染し、繁殖することによって炎症などを起こす病気です。代表的なものは膀胱炎(ぼうこうえん)と、膀胱炎から合併する腎盂腎炎(じんうじんえん)。時に腎不全まで引き起こす場合もある、尿路感染症について解説します。
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日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)獣医学部獣医学科卒業。
2010年に日本獣医生命科学大学大学院で犬および猫の慢性腎臓病の早期診断の研究で博士(獣医学)号を取得。
2011年から日本獣医生命科学大学に着任し、同時に付属動物医療センター腎臓科を担当。
【資格】
◇獣医師
犬および猫の腎臓病・泌尿器疾患、体液・酸塩基平衡を中心に診療、研究を行っている。
自宅で、自己主張が苦手なシェルティ(オス5歳)と、走り回るのが大好きなミックス猫(メス7歳)と暮らす。
【翻訳書】
「イヌとネコの腎臓病・泌尿器病-丁寧な診断・治療を目指して」Canine and Feline Nephroligy著 ファームプレス
目次
尿路感染症とは
Zanna Pesnina/ Shutterstock.com
犬の細菌感染症の中でもっとも代表的な病気です。
細菌が尿路に侵入して増殖し、炎症を引き起こします。
尿路の各部位での細菌感染症は、それぞれ「腎盂腎炎(じんうじんえん)」「尿管炎(にょうかんえん)」「膀胱炎(ぼうこうえん)」「尿道炎(にょうどうえん)」と言われています。
このように病名としては区別されますが、実際の症状として現れるのは、「下部尿路感染症」の「膀胱炎」と、「上部尿路感染症」の「腎盂腎炎」です。
犬の尿管炎の症状はわかりにくく、手術で開腹した場合などに炎症が認められることがあります。
犬の尿道炎は、膀胱炎の症状が現れて初めて尿道炎も発症していることがわかります。
よって、「犬の尿管炎」と「犬の尿道炎」は、単独で鑑別診断されることはありません。
尿路とは
犬の上部尿路と下部尿路
尿の生成を行い対外へ排出する器官である泌尿器。
尿の通り道となる腎盂(腎臓内部にあって尿を集める袋状の部分)、尿管、膀胱、尿道を「尿路」と言います。
腎盂と尿管を「上部(じょうぶ)尿路」、膀胱と尿道を「下部(かぶ)尿路」と呼び区分します。
犬の尿路感染症【原因】
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原因となる細菌は、「尿道」→「膀胱」→「尿管」→「腎盂(じんう)」と、下から上へと尿路をさかのぼり「上行性尿路感染(じょうこうせいにょうろかんせん)」していきます。
つまり、一連の感染により、単なる膀胱炎から深刻な腎臓病が合併していく恐れがあるということです。
とくに、膀胱炎を放置しておいたり膀胱炎の再発を繰り返したり、あるいは腎臓の病気があったり、クッシング症候群や糖尿病など免疫低下の病気があると腎盂腎炎になりやすくなります。
先述したとおり、尿路感染症は尿道から細菌が侵入することで発症するので、尿路感染症を引き起こす原因は、以下のような細菌性膀胱炎を発症する原因とほぼ同じです。
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水分の不足
摂取する水分が少ないと尿の量が少なくなり、尿量が少ないと、膀胱に溜めている時間が長くなります。
このことは細菌が増殖する時間を与えてしまいます。
また、散歩中にしか排尿しない犬の場合は、散歩回数が減ると排尿回数が減少し、同じように膀胱に尿を溜めている時間が長くなります。
もちろん、これだけで「細菌性膀胱炎」になるわけではなく、発症の一因ということです。
活動性の増加により排尿回数も増えることがわかっているので、水分を十分に摂取するとともに適度な運動を心がけましょう。
尿が薄くなる疾患
クッシング症候群や糖尿病、慢性腎臓病の病気になると、尿を濃くすることができません。
濃い尿は細菌増殖を抑制してくれますが、尿が薄いと細菌が増殖しやすくなります。
これらの病気で免疫力が落ちることも細菌性膀胱炎の一因と考えられています。
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結石や腫瘍ができている
膀胱内に尿石や腫瘍などの塊があると、膀胱が収縮して排尿した際に壁となり、全部の尿が排泄しきれなくなることがあります。
膀胱内に残ってしまった尿は細菌増殖の温床になります。
また、結石や腫瘍は、膀胱の粘膜を壊し、細菌が付着して感染しやすくします。
一部の結石では、結石そのものが細菌の巣になることもあります。
外陰部の炎症
メスの場合、外陰部が毛や皮膚で覆われ、付着した尿により常に湿潤状態となり「尿やけ」を起こす場合があります。
「尿やけ」が皮膚の常在菌叢(じょうざいきんそう)を壊し、膀胱炎の原因となる細菌感染の温床に。
時には膣炎(ちつえん)になり、これも細菌感染の原因になります。
陰部が皮膚に覆われている場合は、こまめな剃毛と洗浄が必要です。
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尿道カテーテルの挿入
採尿検査のために尿道カテーテルを挿入する場合がありますが、じつはこれが細菌侵入の原因になることがあります。
どんなに気をつけて行っても感染を起こすことがあることを理解しておきましょう。
状況にもよりますが、自然排尿や膀胱穿刺(ぼうこうせんし)による採尿なら、感染の原因にはなりません。
※膀胱穿刺(ぼうこうせんし):お腹から針を刺して膀胱内の尿を採取する方法
先天性の異常
胎児の段階で膀胱と母体をつないでいた尿膜管が、生後も一部残ってしまう先天性の異常を「尿膜管遺残(にょうまくかんいざん)」と言います。
この尿膜管が膀胱の先端に残ってしまうと「膀胱憩室(ぼうこうけいしつ)」という状態になります。
この憩室に尿が溜まると菌が増殖しやすくなります。
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膀胱の麻痺
椎間板ヘルニアなど脊椎疾患にかかることで、膀胱が麻痺することがあります。
排尿筋肉の緊張をはじめ、膀胱が収縮できなくなり、膀胱に尿が溜まってしまう「膀胱アトニー」になり、細菌にも感染しやすくなってしまいます。
尿路感染症の原因となる菌は?
尿路感染症の原因となる細菌は、ほぼ6割が「大腸菌」を主体とする腸内細菌です。
また、犬の体内で「ウレアーゼ酸性菌」となるブドウ球菌やプロテウス属の細菌は、尿路感染症を引き起こすストルバイト結石ができる原因となります。
真菌(カビ)感染はほとんどありませんが、ごくまれに膀胱炎が長期にわたった場合に発症を誘発します。
犬の尿路感染症【症状】
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犬の尿路感染症には、以下のような症状が見られます。
膀胱炎の場合
血尿が出る
膀胱や尿路が炎症を起こすことで、血液が混じった尿が出ます。
色は褐色から赤い色で、発見したらすぐに、獣医師に相談しましょう。
日頃から排尿の様子や回数、色、匂いなどをよく観察しておくことも大切です。
有痛性排尿困難
膀胱が収縮する時に痛みを伴い、一度に少量しか排尿できない状態です。
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排尿障害(排尿できない)
慢性的な膀胱炎になると、膀胱が収縮できなくなり、排尿障害をきたす場合があります。
細菌感染が持続すると、尿石症になることもあり、結石が詰まって尿を出せなくなることもあります。
尿が濁っている
細菌感染が重度になると、炎症性細胞が膿になり、白っぽく濁った膿尿になります。
不適切な場所で排尿・失禁する
【獣医師監修】犬が尿漏れする、失禁する。この症状から考えられる原因や病気は?
尿漏れは、「尿失禁」とも言われますが、意識せずに排尿してしまう症状です。老化やホルモンの減少に伴い発症する場合や、神経系の病気で起こることもあります。ここで詳しく原因や注意すべき状態などをチェックしていきましょう。
頻尿(排尿回数は多いが、1回あたりの尿量が少ない)
【獣医師監修】犬のおしっこ(尿)の回数が多い、頻尿。この症状から考えられる原因や病気は?
尿の回数が多い場合、まず確認したいのが「1回あたりの尿量」。何度もトイレに行くのに1回の尿量が少ない場合は頻尿であり、多い場合は多尿により排尿回数が増えています。頻尿の場合には膀胱の病気が考えられます。そんな犬の頻尿状態の原因や注意すべき症状解説します。
尿の匂いが変わった
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腎盂腎炎(じんうじんえん)の場合
犬の腎盂腎炎(じんうじんえん)には急性と慢性とがあり、急性の場合以下のような全身的な症状が見られます。
慢性の場合は症状が現れないまま、慢性腎臓病の原因になったり、慢性腎臓病が悪化する要因の一つとなったりします。
食欲不振
【獣医師監修】犬の食欲不振・犬が食べない。考えられる原因や対処方法は?
「食欲不振」「嘔吐」「下痢」は、飼い主がすぐに気づいてあげられる愛犬からの3大「不調サイン」と言われています。食欲がない状態を見過ごさずに、適切に対処することが大切です。
発熱している
ぐったりして元気がない
お腹を触ると腹筋を強める
背中を丸めるようにして寝ている
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犬の尿路感染症【発症しやすい犬種】
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犬の尿路感染症は、すべての犬種に発症の可能性がありますが、統計的には、他の犬種と比べてとくに以下の犬種の発症リスクが高いと言われています。
ここに挙げるのは、尿路感染症、つまり、細菌性膀胱炎になりやすいという意味であり、腎盂腎炎になりやすいという犬種ではありません。
シベリアン・ハスキー
ダックスフンド
トイ・プードル
ラブラドール・レトリーバー
また、オスに比べて尿道が短いメスは、陰部と肛門が近いことから、座り込む排尿姿勢も含めて細菌の侵入が容易となり、細菌性膀胱炎の発症が多くなります。
犬の尿路感染症【診断方法】
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下部尿路感染(膀胱炎)と上部尿路感染(腎盂腎炎)で、まったく症状が違う尿路感染症。
従って、診断方法も膀胱炎と腎盂腎炎で異なってきます。
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膀胱炎の場合
尿検査
細菌性膀胱炎が疑われる場合、まず行うのが「尿検査」による診断で、膀胱内の異常の有無を確認することができます。
汚れていない紙皿で尿を採取するとよいです。
検査を受けるまで30分以上かかる場合には、尿を冷蔵保存しておきましょう。
犬の採尿が難しい時は、カテーテルではなく膀胱穿刺(ぼうこうせんし)での尿の採取をお願いしましょう。
※膀胱穿刺(ぼうこうせんし):お腹から針を刺して膀胱内の尿を採取する方法
超音波検査
結石が疑われたり再発を繰り返す場合は、超音波での画像検査で、尿検査よりさらに詳しく膀胱内の状態を確認します。
細菌培養
「細菌性膀胱炎」と確定したら、最適な抗菌薬を処方するために、どんな細菌が感染しているかを特定する細菌培養検査を行います。
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腎盂腎炎(じんうじんえん)の場合
同じ尿路感染症である膀胱炎の場合は検査により診断できますが、腎盂腎炎の場合、これといった検査方法がありません。
尿を採取し検査しても、腎臓に感染している菌が出てくるかわからず、画像検査をしても異常がないことがあります。
診断がとても難しい病気だと言えます。
基本的には急性であれば発熱、痛み、敗血症(血液中に細菌が感染する病気で、発熱や低血圧などを発症)など症状を示し、血液検査により白血球の増加、炎症のマーカー(C反応性蛋白)の上昇、超音波検査で腎盂や尿管の拡張の所見などを組み合わせて臨床診断します。
しかしながら、こういった症状や数値が出れば腎盂腎炎だという基準はありません。
確定診断のためには、腎盂穿刺という患者には負担が大きい検査を行う必要があり、これはほとんど行われません。
しかも、慢性の場合は、特徴的な所見はほとんどなく、慢性腎臓病の進行や腎盂、尿管の拡張から腎盂腎炎が疑われ、診断に至ることがあります。
Pressmaster/ Shutterstock.com
急性腎不全を起こしている場合は以下の検査をします。
これらの検査により、腎臓の構造的な異常やタンパク尿、腎機能の低下を評価し、その結果をふまえて治療方法を検討します。
問診・身体検査
先述した症状の有無、症状が始まった時期、投薬歴、毒性物質と接触した可能性、合併症などを確認します。
また、口臭(アンモニア臭)の有無、触診で腎臓の大きさや形、膀胱内の尿の溜まり具合などを調べます。
血液検査
腎臓の機能を反映する指標である尿素窒素[BUN]やクレアチニン[Cre]の値が上昇していることを確認します。
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尿検査
尿の濃度やタンパク尿の有無を判定します。
尿が濃縮されず薄くなっていると腎臓の機能低下を示し、タンパク尿は腎臓の組織が障害を受けていることを示しています。
腎臓が原因でタンパク尿が出ていれば、腎臓病と診断されます。
X線検査・超音波検査
腎臓の大きさや形が正常か、尿路結石の有無などを調べます。
慢性腎臓病では腎臓は小さくなることが多いです。
超音波検査では、腎臓の形や中の構造の異常も評価できます。
犬の尿路感染症【治療方法】
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抗生物質の投与
尿路感染症は、抗生物質など抗菌薬の投与で治療します。
膀胱炎で1~2週間、腎盂腎炎になっている場合はさらに1カ月以上かかります。
輸液療法
腎不全を起こしている場合は、体内の水分を増やすために血管から輸液を点滴します。
点滴でカラダ全体に水分を行き渡らせるためには時間がかかるので入院が必要になります。
犬の尿路感染症【予防対策】
Anna Berdnik/ Shutterstock.com
陰部を清潔に保つ
散歩に出掛けたら、排尿・排便のたびに陰部をきれいにして、清潔に保ってあげましょう。
消毒液を使うと常在菌も死んでしまうので、水道水で構いません。
きれいなタオルで拭いてあげましょう。
また、陰部の被毛を剃毛するといった方法も有効です。
水分を十分に摂取する
十分な水分を摂取させて排尿を促進することは不可欠です。
犬がいつでも水分を摂取できるよう、
✔水皿を増やす
✔頻繁に新鮮な水に交換する
✔ウエットフードを取り入れる
✔ドライフードをふやかす
などして工夫しましょう。
また、散歩回数を増やすなど活動性を上げることで排尿回数が増え、膀胱から細菌が排出され、増殖を防止できます。
Gita Kulinitch Studio/ Shutterstock.com
クランベリーエキスを摂取する
人間の膀胱炎の民間療法として、クランベリージュースで細菌の増殖を抑えるという方法があるようですが、犬では、クランベリージュースでの効能は証明されていません。
ただし、クランベリーエキスのサプリメントでは、犬の細菌性膀胱炎を改善させたという報告があります。
定期的な検査を行う
異常がなくとも定期的に血液検査や尿検査を受けることが早期発見につながります。
なかでも膀胱炎は繰り返し再発させないことが大切です。
中年齢以降であれば毎年健康診断を受けるようにしましょう。
犬の尿路感染症【間違えやすい病気】
Melounix/ Shutterstock.com
尿路感染症に似ている症状の病気はとくにありません。
尿路感染症の代表的な病気である細菌性膀胱炎や腎盂腎炎については、こちらの記事も併せて読んでみてください。
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