【獣医師監修】「犬の尿路結石症(尿石症)」原因や症状、なりやすい犬種、治療方法は?
犬の「尿路結石症(にょうろけっせきしょう)」とは、尿路である腎臓、尿管、膀胱、尿道に石ができる病気です。犬では発症率が比較的高く、血尿や排尿困難、腎不全などの原因にもなります。尿路結石の種類によって発生部位や症状、治療法も異なる尿路結石症について解説します。
更新日:
日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)獣医学部獣医学科卒業。
2010年に日本獣医生命科学大学大学院で犬および猫の慢性腎臓病の早期診断の研究で博士(獣医学)号を取得。
2011年から日本獣医生命科学大学に着任し、同時に付属動物医療センター腎臓科を担当。
【資格】
◇獣医師
犬および猫の腎臓病・泌尿器疾患、体液・酸塩基平衡を中心に診療、研究を行っている。
自宅で、自己主張が苦手なシェルティ(オス5歳)と、走り回るのが大好きなミックス猫(メス7歳)と暮らす。
【翻訳書】
「イヌとネコの腎臓病・泌尿器病-丁寧な診断・治療を目指して」Canine and Feline Nephroligy著 ファームプレス
目次
尿路結石(尿結石)は部位別に4種類
尿路結石の種類
「尿路結石」(尿結石)は、尿路である腎臓、尿管、膀胱、尿道にミネラル成分が集まってできる「石」のことです。
尿路は、腎臓や尿管からなる「上部尿路」と、膀胱や尿道からなる「下部尿路」とに大きく分けられ、尿路結石は、以下のとおり、どこに結石があるかによって、その呼び名が異なります。
上部尿路
腎臓にできる「腎臓結石」
尿管にできる「尿管結石」
下部尿路
膀胱にできる「膀胱結石」
尿道にできる「尿道結石」
尿管結石と尿道結石の場合は、厳密に言うとその部位にできるわけでなく、腎臓から尿管へ、膀胱から尿道へ石が転がり、症状を起こします。
それぞれ症状が異なりますが、とくに上部尿路に石が詰まると、治療が厄介な急性腎不全の原因になるので注意が必要です。
尿路結石の種類(成分)と特徴
Kristian Randel/ Shutterstock.com
尿路結石は、小さい砂状のもの、大きくなると膀胱内を占めるようなサイズ、腎臓の腎盂(じんう)の形にはまるようなサンゴ状結石など、大きさも形状もさまざまです。
尿路結石には、結晶するミネラルの成分別に以下の種類があります。
結石の種類によって、症状や治療方法が異なるので、少し難しいですが覚えておきましょう。
ストルバイト結石
成分
ストルバイト(リン酸×アンモニウム×マグネシウム)
できやすい部位
膀胱・尿道などの下部尿路に多い
できやすい条件
アルカリ性の尿で成分が結晶化する
特徴
大きくなりやすい、酸性で溶ける、尿路感染から起こる膀胱炎による発症が多い
シュウ酸カルシウム結石
成分
シュウ酸×カルシウム
できやすい部位
腎臓、尿管など上部尿路に多い
できやすい条件
アルカリ性から酸性まであらゆるpHで結晶する
特徴
あまり大きくならない
尿酸塩結石
成分
尿酸アンモニウム
できやすい部位
上部・下部両方
できやすい条件
酸性で結晶しやすい
特徴
小さく壊れやすい、先天性の門脈体静脈シャントなど、肝臓の代謝機能に関係していることが多い
このほかシスチン、シリカ、ケイ酸塩などの結石もありますが、あまり見られません。
犬の尿路結石症(尿石症)【原因】
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尿路結石の原因と言えば、一般的に「偏った食事」と言われていますが、ストルバイト結石の原因としてはあてはまりません。
以下のとおり、食事以外の原因もたくさんあります。
偏った食事
「シュウ酸」を多く含む食事を過剰に摂ったり、「マグネシウム」「カルシウム」「リン酸」を摂りすぎると、尿中の濃度が高くなり、結石を作りやすくなります。
また、結石の成分となる物質と結合して、結石成分同士の結晶化を抑制する「クエン酸」や「ピロリン酸」などの減少も尿路結石症の誘因になります。
さらに、タンパク質の摂取過剰もシュウ酸カルシウムの原因になります。
近年では、グレインフリーの食事が増えていますが、これらの食事はタンパク質が多めです。
シュウ酸カルシウム結石になったことがある犬に対しては、こういった高タンパク食は避けるべきでしょう。
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おしっこを我慢する環境
結晶が集まって結石になるには、時間がかかります。
「トイレに行くのを我慢する」「散歩に行かない」など、排尿する機会が極端に少ないと、膀胱内尿が溜まっている時間が長くなるので、結晶が集まって結石になる時間を与えてしまうことになります。
水分摂取量の不足
ドライフードばかりを食べて水分摂取量が少ない場合など、体内の水分量が不足すると尿量が減ります。
尿が濃いと、結石の成分が結晶化しやすくなります。
また、尿量の減少は排尿回数の低下につながり、膀胱内に尿が貯留する時間が長くなります。
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行動量や運動量の低下
活動性の低下や運動不足は、代謝の低下を引き起こします。
去勢・避妊も代謝を低下させ、肥満になりやすくします。
肥満になるとさらに活動性が低下します。
こうした活動性の低下に伴う代謝の低下は、水分摂取の減少につながるので要注意です。
その理由は、体内で栄養素の分解を行う際に発生する水(代謝水と言います)が、代謝の低下により減少し、水分摂取量の不足と同じことになるためです。
逆に運動量の増加は、排尿回数の増加に関連しています。
少々乱暴ですが、家で寝てばかりいる犬は、排尿回数も少なくなると言えるでしょう。
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代謝性の疾患
人間の場合、糖尿病などの代謝性疾患は、尿中のクエン酸などの物質の減少を引き起こすため、シュウ酸カルシウム結石の発症要因になると考えられています。
犬や猫でもこうした代謝性疾患と尿路結石は関係していると思われます。
尿路の感染症
細菌性膀胱炎は、いくつかの理由により尿路結石症の原因になります。
まず、細菌感染による膀胱の炎症は、膀胱粘膜を傷つけ、細胞が尿中に出ていってしまいます。
この細胞や粘膜が結石の「核」(この核を中心に結晶が貼り付いていきます)になりやすいです。
また一部の細菌は、尿をアルカリ性に傾けてしまいます。アルカリ性の尿はストルバイト結石を作りやすい環境を作ります。
さらに、膀胱炎は膀胱機能を低下させ、「残尿」を発生させます。膀胱炎があると、排尿時に膀胱が痛いと感じ、全量を出し切る前に排尿をやめてしまうことも残尿の原因に。
残尿は、尿が膀胱内に貯留する時間を長くするために、結晶化や結石形成の時間を与えてしまうことになります。
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肝臓の疾患
先天的な「門脈体循環(もんみゃくたいじゅんかん)シャント」ほか、肝臓に障害がある場合は、尿酸代謝に異常が生じ、尿酸塩結石の原因になります。
遺伝(ダルメシアン)
生まれつき尿酸を分解する肝臓の能力が低下しているために、尿酸塩結石を発症することがあります。
このような病気は、ダルメシアン、イングリッシュ・ブルドッグなどでよく認められ、ミニチュア・シュナウザー、ヨークシャー・テリアなどでも認められることがあります。
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尿路結石をめぐるドッグフードの変化
1980年代を境にそれまで多かったストルバイト結石が減少し、シュウ酸カルシウム結石が増えていきました。
これは、ドッグフード・キャットフードの普及と関係があります。
ドライフードが開発されたのは1960年代のことで、70~80年代にかけて普及していきました。
同時に、とくに猫でストルバイトによる尿道閉塞が多発。
食事内容に問題があると考えられ、マグネシウムが少なく、尿を酸性にさせるストルバイト結石対策用のフードが普及していきました。
1990年以降になると、ストルバイト結石は減少傾向になりましたが、シュウ酸カルシウム結石が増えていっています。
これは、
◇尿を酸性させること(尿中にカルシウムの排泄が増える)
◇マグネシウムやリンを制限したフードが一般的になったこと(これらはシュウ酸カルシウムの阻害物質でもあります)
◇ドライフードの普及に伴う水分摂取量の低下
によると考えられています。
そのため現在では、シュウ酸カルシウム結石も予防するとした多くの食事が登場しています。
しかし、シュウ酸カルシウムを予防できることを科学的に証明した食事は未だにないので、食事だけでシュウ酸カルシウムを予防しようとしてはいけません。
水分摂取を増やすこと(ふやかす、ウェットフードにする)、排尿回数を増やす、運動する、細菌性膀胱炎があればしっかり治療するといった、食事以外のことで対策をとるほうがはるかに重要です。
犬の尿路結石症(尿石症)【症状】
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犬の尿路結石症(尿石症)では、結石ができる部位によって以下のような症状が見られます。
頻尿になる
血尿が出る
「膀胱結石」が疑われます。
尿がぽたぽたとしか出ない
尿が全く出ない
「尿道結石」が疑われます。
元気がない
食欲がない
吐いてしまう
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こういった症状の原因はさまざまですが、結石のせいで全身症状が出る場合には、尿管結石が尿管に詰まり、急性腎不全を発症した場合にこういった症状を引き起こします。
ただし、片方だけの尿管の閉塞では、症状を示さないことがほとんどです。
また、腎臓結石はとくに症状を示しませんが、大きい場合は腎臓機能を低下させる恐れがあるため、慢性腎臓病の原因、悪化要因になります。
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犬の尿路結石症(尿石症)【発症しやすい犬種】
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犬の尿路結石症(尿石症)は、すべての犬種に発症の可能性がありますが、統計的には、以下の傾向があります。
ストルバイト結石
細菌性膀胱炎になりやすい中年齢以降のメス犬
シュウ酸カルシウム結石
中年齢以降の去勢したオス犬
尿酸アンモニウム結石
ダルメシアンやイングリッシュ・ブルドッグ
犬の尿路結石症(尿石症)【診断方法】
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犬の尿路結石症(尿石症)のうち膀胱結石は、細菌性膀胱炎と同じく、「血尿、頻尿、尿が出ない」などの症状が現れるため、細菌膀胱炎を調べる検査と同じ内容で、鑑別診断していくことになります。
腎結石や尿管結石は偶発的に見つかるケースが多いです。
尿検査
尿の濃さ、尿に血が混じっていないか、タンパクや細菌が尿から出ていないか、尿のpH、尿中の結晶の有無などを調べます。
家で採尿してから検査を受けるまで30分以上かかる場合には、尿を冷蔵保存してください。
なお、家での犬の採尿が難しい時は、カテーテルではなく膀胱穿刺(お腹から針を刺して膀胱内の尿を採取する方法)での尿の採取をお願いしましょう。
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超音波検査・X線検査
基本的には画像検査で、石の存在を割り出していきます。
上部尿路結石は偶発的に見つかるケースが多く、全身症状を示した場合には、すでに急性腎不全など重症化しています。
定期的に画像検査などで早期発見することが大事です。
とくに尿管結石は痛みがないので、発見された時は「手の施しようがない」ということもあります。
犬の尿路結石症(尿石症)【治療方法】
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尿路結石症の治療は、以下のとおり、結石の種類によって異なりますが、共通していることは「よく水を飲ませること」、排尿回数を増やすこと、活動性を上げることです。
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ストルバイト結石の場合
ストルバイト結石の場合は尿を酸性にすると溶けるため、尿を酸性にするようにします。
抗菌薬
細菌性膀胱炎があれば、徹底的に抗菌薬で治療します。
細菌性膀胱炎をコントロールすることができれば、尿石症用の療法食を使用する必要がないことも多いです。
療法食
細菌性膀胱炎でなければ、尿を酸性化させる尿石症用の療法食を使用することもあります。
外科手術
結石が大きくなりすぎていたり、ストルバイト結石自体が細菌感染の原因であったり、細菌性膀胱炎以外の原因(膀胱アトニー、残尿がある場合には)がある場合には、結石が溶解するまでに非常に時間がかかるため、外科手術により摘出することも考慮すべきです。
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シュウ酸カルシウム結石の場合
外科手術
シュウ酸カルシウム結石は溶解しないため、数が多い場合や結石が大きい場合は、外科手術で取り出します。
自然に石を排出させる
石が小さく、尿管や尿道を完全に詰まらせていなければ、十分に水分を摂取し、尿量を増やし、よく運動させることで、尿中に結石を排泄させることができます。
犬の尿路結石症(尿石症)【予防対策】
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十分に水分を摂る
こまめな水分補給をうながしましょう。
ドライフードしか食べないことで、水分摂取量が足りなくなっているケースがあります。
とくに、チワワやヨークシャー・テリアなどの小型犬種は水を積極的に飲まないことがあるため、ドライフードをふやかしたり、ウェットフードに切り替えたりする対応が必要です。
過剰な「シュウ酸」摂取を避ける
シュウ酸を多く含む
ほうれん草
キャベツ
ブロッコリー
レタス
さつまいも
なす
大根
かぶ
たけのこ
バナナ
などを過剰に摂取している場合は控えてください。
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陰部を清潔にする
とくにメス犬では、陰部からの細菌の侵入が細菌性膀胱炎を引き起こします。
再発する細菌性膀胱炎は結石症の原因になります。
陰部の剃毛、きれいな水に濡らしたタオルで拭くなどこまめな洗浄(この際、消毒液は使わないでください)で清潔にすることが細菌性膀胱炎の再発を防ぎます。
運動を増やす
尿管結石の場合には、簡単に手術できないことも多く、手術の負担も大きいので、なるべく自然に排出させたいところです。
もし結石ができてしまったとしても、小さい段階で体外に出してしまうことができれば、問題は起こりません。
水をよく飲み、尿量を増やした上で、散歩や運動を増やすことが振動を与え、結石を出口に導きやすくします。
排尿回数を増やすことも、予防や自然排石につながります。
犬の尿路結石症(尿石症)と間違えやすい病気
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細菌性膀胱炎
細菌性膀胱炎とは、大腸菌などの細菌が尿道から入り、膀胱に炎症が起きる病気です。
感染症以外に、膀胱結石や腫瘍、外傷なども原因になります。
症状としては、頻尿や排尿時痛、血尿などが現れます。
細菌が腎臓にも入り込んでしまうと、腎盂腎炎(じんうじんえん)になり、発熱、食欲低下といった症状を示すことがあります。
膀胱腫瘍
膀胱腫瘍とは、膀胱に腫瘍ができることで、血尿や頻尿といった症状を引き起こします。
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