【獣医師監修】犬の「マラセチア皮膚炎」原因や症状、診断、治療法、予防対策(シャンプー)は?

犬の「マラセチア皮膚炎」とは、皮膚に常在する「マラセチア」という酵母様真菌が関与した、痒みや赤みなどを生じる皮膚病です。今回は犬のマラセチア皮膚炎の原因や症状、治療方法、予防対策について、詳しく解説します。

更新日:

先生にお聞きしました
村山 信雄 先生
獣医師 博士(獣医学) アジア獣医皮膚科専門医 犬と猫の皮膚科 代表

【学歴・経歴】
◇1968年10月:東京生まれ
◇1994年3月:帯広畜産大学畜産学部獣医学科卒業
◇1994年4月:根室地区農業共済組合勤務 
◇1996年8月:寺田動物病院(大阪)勤務
◇1997年8月:めむろ動物病院(北海道)勤務
◇2010年8月:アジア獣医皮膚科専門医取得
◇2012年9月:岐阜大学連合大学院にて博士(獣医学)取得
◇2012年10月:犬と猫の皮膚科設立
◇2016年3月:犬と猫の皮膚科クリニック開設

【資格】
獣医師

【所属学会】
日本獣医皮膚科学会
アジア獣医皮膚科学会
アジア獣医皮膚科専門医協会

【役職】
東京薬科大学客員研究員

【hotto Professionalインタビュー】
ProfessionalインタビューVol.2 村山信雄先生「犬と猫の皮膚科クリニック」代表
続きを読む

犬の【マラセチア皮膚炎】とは?

犬のマラセチア皮膚炎のメカニズム

February_Love/ Shutterstock.com

マラセチア・パキデルマティス(以下、マラセチア)は、皮膚に常在する酵母様真菌(カビ)で、このマラセチアが関連した皮膚炎を「マラセチア皮膚炎」と呼びます。

犬の「マラセチア皮膚炎」とは、皮膚に常在する「マラセチア」という酵母様真菌が関与した、痒(かゆ)みや赤みなどを生じる皮膚病です。

マラセチアが関連した皮膚炎には、以下のようなメカニズムになっています。

メカニズム①【マラセチアの増殖・感染】

マラセチアは脂質を好む酵母様真菌であることから、あぶら症の犬やホルモンのバランスが崩れることにより皮脂が過剰に産生される犬などでは、あぶらの溜まりやすい部位を主体にマラセチアが過剰に増殖します。

それにより、痒(かゆ)みや炎症を引き起こします。

なお、マラセチアは全ての犬に常在している酵母様真菌であることから、一般的なカビの感染症(皮膚糸状菌症)とは異なり、他の犬などへの感染はありません。

マラセチアの増殖・感染

メカニズム②【マラセチアが皮脂や蛋白を分解】

マラセチアが分泌する酵素により皮脂や蛋白(たんぱく)が分解され、その分解による産物が痒(かゆ)みや炎症を引き起こします。

メカニズム③【マラセチア自身が炎症を引き起こす酵素を放出】

マラセチアが炎症を誘導する酵素を放出し、それにより皮膚炎が生じます。

メカニズム④【マラセチアに対するアレルギー】

犬に常在する酵母様真菌のマラセチアに対してアレルギーが起きることもあるとされています。

アレルギーによって、痒(かゆ)みや炎症が引き起こされます。

原因

犬のマラセチア皮膚炎【原因】

犬のマラセチア皮膚炎【原因】

Todorean-Gabriel/ Shutterstock.com

原因①【脂性の体質】

日本と比べて乾燥した気候に適した体質の海外犬種は、日本のような高温多湿な気候の環境では、皮脂の分泌が増え、脂性の体質になりやすくなります。

こうして皮脂の分泌が増えると、マラセチアが増殖しやすくなります。

生まれつきあぶら症体質の犬は、日本のような高温多湿の生活環境において脂質を好むマラセチアが増えやすい環境といえます。

また、あぶら症の体質は、一般的に年齢を重ねるごとに重度を増すことがあります。

ほかにも、甲状腺機能低下症や性ホルモン関連皮膚症などホルモンのバランスが崩れることにより「あぶら症になる」、または「あぶら症が悪化すること」があります。

Jne Valokuvaus/ Shutterstock.com

原因②【高温多湿の環境】

高温多湿な環境は、脂質を好むマラセチアが増えるには好条件です。

そのため、春から秋にかけた高温多湿の時期に皮膚症状がみられる、または悪化する傾向があります。

原因③【基礎疾患による併発】

犬のアトピー性皮膚炎や食物アレルギーなどの皮膚炎により皮膚の環境が悪化し、常在菌であるマラセチアが増殖することがあります。

症状

犬のマラセチア皮膚炎【症状】

犬のマラセチア皮膚炎【症状】

kobkik/ Shutterstock.com

痒(かゆ)みがある

犬のマラセチア皮膚炎の主な症状は痒(かゆ)みです。

急性または軽症例と慢性または重症例で、異なった皮膚症状がみられます。

フケが多い
脂が多く被毛がねっとりしている
皮膚に赤みがある

軽症(急性)例で生じる症状です。

Wichatsurin/ Shutterstock.com

抜け毛が多い
皮膚が黒くなる(色素沈着)
皮膚が象のようのボコボコしている

重症(慢性)例で見られる症状です。 

マラセチアは皮脂を好むため、皮脂が溜まりやすいシワ部分(口の周り、耳、指の間、肛門など)が好発部位になります。

発症しやすい犬種

犬のマラセチア皮膚炎【発症しやすい犬種】

犬のマラセチア皮膚炎【発症しやすい犬種】

Csanad Kiss/ Shutterstock.com

犬のマラセチア皮膚炎は、すべての犬種で発症の可能性がありますが、統計的には、他の犬種と比べてとくに以下の犬種の発症リスクが高いと言われています。

犬のマラセチア皮膚炎【発症しやすい犬種】

【犬種】
マラセチア皮膚炎を発症しやすい犬種①ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア
マラセチア皮膚炎を発症しやすい犬種②キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
マラセチア皮膚炎を発症しやすい犬種③コッカー・スパニエル
マラセチア皮膚炎を発症しやすい犬種④シーズー
マラセチア皮膚炎を発症しやすい犬種⑤ジャーマン・シェパード・ドッグ
マラセチア皮膚炎を発症しやすい犬種⑥チワワ
マラセチア皮膚炎を発症しやすい犬種⑦トイプードル
マラセチア皮膚炎を発症しやすい犬種⑧ボクサー
マラセチア皮膚炎を発症しやすい犬種⑨ミニチュア・ダックスフント

海外の気候に合った外国犬種では、あぶら症のことが多く、高温多湿の日本では、体質としてのあぶら症がマラセチア皮膚炎の背景となります。

日本犬種がマラセチア皮膚炎となる場合には、犬アトピー性皮膚炎などにより皮膚のバリア機能が乱れることで、マラセチアが増えている可能性が高いと考えられます。

診断方法

犬のマラセチア皮膚炎【診断方法】

犬のマラセチア皮膚炎【診断方法】 

Kukota/ Shutterstock.com

診断方法①【皮膚症状の評価】

犬のマラセチア皮膚炎の診断は臨床像を重視し、シワの部位に一致した鱗屑(りんせつ)や脂漏(しろう)を伴う紅斑(こうはん)、脱毛、色素沈着、および苔癬化(たいせんか)がみられた場合にはマラセチア皮膚炎を考えます。

診断方法②【顕微鏡検査】

犬のマラセチア皮膚炎の症状がみられる部位にテープを貼り、それを染色後、顕微鏡下でマラセチアの有無を観察します。

マラセチアの数のみで確定診断はできないことから、顕微鏡でマラセチアが観察されなくても、症状がマラセチア皮膚炎に合致している場合には、抗真菌薬などによる治療的評価を実施します。

治療方法

犬のマラセチア皮膚炎【治療方法】

犬のマラセチア皮膚炎【治療方法】   

Jaromir Chalabala/ Shutterstock.com

治療法①【シャンプー療法】

ミコナゾールおよびクロルヘキシジン含有製剤を使ってシャンプーを行います。

皮脂やマラセチアを物理的に洗い流すとともに、患部の殺菌を行います。

犬のマラセチア皮膚炎の症状が改善されるまでは週2回ほどの洗浄を行い、良好に経過したならば週1回程度にシャンプーに変更します。

治療法②【全身療法】

抗真菌薬製剤であるイトラコナゾールを1日1回内服します。

最近は週2回投与(連日2日)も効果的との報告もあることから、犬のマラセチア皮膚炎の症状に合わせて1日1回または週2回を選択します。

Jaromir Chalabala/ Shutterstock.com

治療法③【原因となる基礎疾患の治療】

たとえば日本在来犬種や高齢からマラセチア皮膚炎を発症した犬では、皮脂が増加する背景疾患を考える必要があり、その背景疾患に対する治療も行います。

もちろん、現在みられるマラセチア皮膚炎に対する治療も行う必要があります。

予防・対策

犬のマラセチア皮膚炎【予防対策】 

犬のマラセチア皮膚炎【予防対策】 

sattahipbeach/ Shutterstock.com

体質的な脂症から生じるマラセチア皮膚炎では、高温多湿な季節に発症します。

したがって、春から秋など暖かくなってきた時期に、皮脂やマラセチアの管理を目的としたスキンケアを実施した方が良いかもしれません。

具体的な予防策として、症状に合わせて1週間から2週間に1回程度、ミコナゾールおよびクロルヘキシジン含有製剤などによるシャンプーを実施します。


犬のマラセチア皮膚炎【間違えやすい病気】

犬のマラセチア皮膚炎と間違えやすい病気 

Photography by Adri/ Shutterstock.com

間違いやすい病気①【犬アトピー性皮膚炎】

犬アトピー性皮膚炎とは、ダニや花粉などの環境中のアレルゲンが原因で皮膚炎を起こす病気です。

最近では皮膚のバリア機能異常も指摘されています。

痒(かゆ)みにより、目のまわりや口のまわり、脇や内股、また足先や指の間などシワの部位を主体に舐め壊したり、噛んだりします。

間違いやすい病気②【犬の水頭症犬の食物アレルギー(皮膚炎)】

犬の食物アレルギーとは、食べ物のアレルギーにより痒(かゆ)みを生じる皮膚病です。

痒みにより、目のまわりや口のまわり、脇や内股、また足先や指の間などシワの部位を主体に舐め壊したり、噛んだりします。

犬のマラセチア皮膚炎【まとめ】

犬の「マラセチア皮膚炎」は、皮膚に常在する「マラセチア」という酵母様真菌が関与した、痒みや赤みなどを生じる皮膚病です。

日本と比べて乾燥した気候に適した体質の海外犬種は、日本のような高温多湿な気候の環境では、皮脂の分泌が増え、脂性の体質になりやすくなります。

また、春から秋にかけた高温多湿の時期に皮膚症状がみられる、または悪化する傾向があります。

愛犬に「痒(かゆ)み」「フケ」「脂が多く被毛がねっとりしている」などの症状が出て、不安な場合には、早めに動物病院で獣医師に診てもらいましょう。

犬のマラセチア皮膚炎の予防対策として、症状に合わせて1週間から2週間に1回程度、ミコナゾールおよびクロルヘキシジン含有製剤などによるシャンプーを実施します。

人間同様に、健康診断を受けると愛犬の病気予防に役立ちますので、定期的に健康診断を受診するのもおすすめです。

みんなのコメント

あなたも一言どうぞ

コメントする

編集部のおすすめ記事

内容について報告する

関連する情報をもっと見る

「病気」の人気記事RANKING