【プロドッグトレーナー監修】シャー・ペイを飼うのは危険?断耳は?性格や寿命、飼い方、気をつける病気!
シャー・ペイは一度目にしたら忘れることのできない、たいへんユニークな風貌をしています。顔も体もシワシワ、舌も青黒い。中国原産の摩訶不思議な犬種の一つです。困ったような表情を浮かべて、さぞのんびりやさんなのだろうと思いきや、いえいえ、これが意外に活発。そんなシャー・ペイとはどんな犬なのか探ってみましょう。
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麻布大学介在動物学研究室(旧動物人間関係学研究室)で、人と犬の関係学を研究。
この分野では日本で初めての博士号を取得。
目次
シャー・ペイ【初心者が飼っても大丈夫?飼うのは危険?】【断耳・断尾は必要?】
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シャー・ペイ【初心者が飼っても大丈夫?飼うのは危険?】
初心者がシャー・ペイ(Shar Pei)を飼うことはあまりおすすめしません。
記号で言うなら△印といったところでしょうか。
かつては「狩猟犬」「警備犬」、そして「闘犬として使われた時代もあった」「他人には親しみにくいのに加えて警戒心も強い」「頑固で独立心がある」ことなどを考えると、犬の飼育経験があり、社会化やしつけに対し真面目に取り組める人には向いていると言えるでしょう。
シャー・ペイ【断耳・断尾は必要?】
シャー・ペイでは「断耳」も「断尾」も行われません。
耳は頭部の大きさのわりに小さく、三角形で、高い位置に付き、頭蓋(ずがい)に沿って垂れています。
犬によっては先端がカールすることも。
尻尾も高い位置に付き、根元は太く、先端にいくほど細くなり、背中に向かってカールしています。
シャー・ペイ【原産国・歴史・寿命は?】
djile/ Shutterstock.com
シャー・ペイ【原産国】
原産国:中国
中国大陸南部の南シナ海に面した広東省にある大瀝(ダリ/ダァリ)という町にこの犬種の起源があるのではないかとの説が一般的に広まっていますが、かつてシャー・ペイをよく知る人物がこの町に居住していたことから、この説が浮上したようです。
シャー・ペイ【歴史】
犬の遺伝子研究によると、JKC(ジャパンケンネルクラブ)では使役犬のグループ(第2グループ)に分類されますが、犬の遺伝子研究によると、シャー・ペイは柴犬や秋田犬、バセンジー、チャウ・チャウなどと並び、オオカミに遺伝子的に近い古代犬のグループに含まれます。
はっきりとした記録があまりなく、詳細は不明なものの、その起源は2000年以上昔の漢王朝時代にまで遡(さかのぼ)ると考えられています。
Mikhail P/ Shutterstock.com
当時、かの地にはハン・ドッグ(Han Dog)と呼ばれる番犬として使われていた気性の荒い犬がいたことが偶像などに残されていますが、その容姿が似ていることから、シャー・ペイとチャウ・チャウの祖先犬であろうというのが通説になっています。
ただ、シャー・ペイがいつ登場したのかは定かではありません。
13世紀の中国の写本で「皺(しわ)のある犬」に言及しているとの話もありますが、それがシャー・ペイであるのか想像の域を出ません。
いずれにしても長い間、広東省周辺で「狩猟犬」や「番犬」として使われていたシャー・ペイは、西洋から闘犬という“娯楽”が入ってくると、闘犬としても使われるようになり、一説には咬(か)みつかれても身をかわしやすいように皺(しわ)が強調されたといいます。
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しかし、巨体のマスティフたちに勝てるわけもなく、人気はすたれ、時は1940年代のこと、中国共産党が政権を握ると、犬を飼うことは西洋の退廃したブルジョア的志向の贅沢だとして、高い税金を課すとともに、多くの犬が“処分”されるという事態に。
シャー・ペイは衰退の一途を辿りましたが、保存を試みたのは香港や台湾、マカオのブリーダーたちです。
その窮状(きゅうじょう)をアメリカに訴えたことで世界に知られるようになり、一時はギネスブックに絶滅の危機にある希少犬種として紹介されたシャー・ペイは、復活の道を経て現在に至ったのです。
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その一方で、現代的タイプのシャー・ペイが増え、本来のタイプが希少になっているとの話もある中、小型化したミニチュア・シャー・ペイ、皮膚の問題を改善する目的で繁殖されたオリエンタル・シャー・ペイという犬も登場しています。
【参照元】
・Elaine A. Ostrander, Robert K. Wayne「The canine genome」(Genome Res. 2005. 15: 1706-1716, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Doi: 10.1101/gr.3736605)
・Bruce Fogle, D, V, M.「The ENCYCLOPEDIA of the DOG」(DK PUBLISHING, INC.)
・デズモンド・モリス「デズモンド・モリスの犬種事典」(株式会社 誠文堂新光社、2007)他
シャー・ペイ【寿命】
平均寿命:8年~12年
*個体の健康度や国・地域、気候、環境などによって寿命には差が生じます。
シャー・ペイ【大きさ・毛色・子犬(赤ちゃん)の販売価格は?】
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シャー・ペイ【大きさ(体重・体高・体格)】
体重:20kg~27kg
体高:44cm~51cm
体は横から見た時に正方形に近いバランスで、胸はやや広く、逞(たくま)しさがあり、頭部は体に対して大きめです。
現状、シャー・ペイには2つのタイプがあり、古代の姿を遺した古典的な「タイプはボーンマウス(Bonemouth)」と呼ばれ、マズル(口吻)や体つきはややスマートで、皺(しわ)も少ない傾向にあります。
それに対し、一般的に目にする現代的な「タイプはミートマウス(Meatmouth)」と呼ばれ、皺は多く、マズルももったりと肉付きがよく、「カバまたはヒキガエルのような口」と表現されることもあります。
【参照元】
・一般社団法人 ジャパン・ケネル・クラブ「シャー・ペイ」
・FEDERATION CYNOLOGIQUE INTERNATIONALE 「SHAR PEI」
・China Kennel Union「沙皮犬 Shra Pei」
・AMERICAN KENNEL CLOB「Chinese Shar-Pei」
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シャー・ペイ【毛色の種類】
スタンダード(犬種標準)上、シャー・ペイの毛色は白以外のソリッド・カラー(単一色)で、
ブラック
ブラウン
レッド
フォーン
アプリコット
クリーム
イザベラ
チョコレート
ブルー
ライラック
などの多彩な毛色が存在します。
被毛に関しては短く(1cm~2.5cm程度)、ざらざらとした手触りの剛毛で、アンダーコートがありません。
もっとも短い馬の毛のような被毛タイプは「ホースコート」と呼ばれ、それよりも少し長いタイプは「ブラッシュコート」と言います。
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その他、ふわふわとした長い被毛をもつ長毛タイプもおり、「ベアコート」と呼ばれますが、スタンダートからは外されています。
本来短毛のシャー・ペイになぜベアコートがいるのかについては、この犬種はチャウ・チャウとの血縁関係が考えられている他、衰退した時代にチャウ・チャウと交配して復興を図ったとの話があり、その遺伝子が今も残っているからではないかと言われています。
なお、シャー・ペイは中国語で「沙皮犬」と書きますが、沙皮とは「砂のようにざらざらとした紙または皮」を意味します。
シャー・ペイ【子犬(赤ちゃん)の販売価格】
子犬の販売価格:30万円~
*価格はあくまでも目安であり、販売者や犬の状況によって変動します。
シャー・ペイ【特徴・性格(気質)・魅力は?】
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シャー・ペイ【特徴】
子犬の頃には全身シワシワで、まるで大人のガウンを着た子供のようですが、成長するとその皺(しわ)はだんだん少なくなるものの、頭部や首、肩、背中などには残ります。
この皺(しわ)は、13番染色体のHAS2(ヒアルロン酸合成酵素)という遺伝子の突然変異により、過剰なヒアルロン酸が皮膚に沈着することで引き起こされることがわかっています。
その突然変異のコピー回数が多い個体ほど、皺が多くなるそうです。
もう一つの特徴は舌が青黒いことで、チャウ・チャウと共通しています。
毛色が薄めの犬では濃いラベンダーのような色になることがありますが、ピンクの舌は望ましくないとされます。
【参照元】Olsson M, Meadows JRS, Truvé K, Rosengren Pielberg G, Puppo F, Mauceli E, et al. (2011)「A Novel Unstable Duplication Upstream of HAS2 Predisposes to a Breed-Defining Skin Phenotype and a Periodic Fever Syndrome in Chinese Shar-Pei Dogs」(PLoS Genet 7(3): e1001332.)
Elmina/ Shutterstock.com
シャー・ペイ【性格(気質)】
シャー・ペイは家族(特に一人)に対しては従順で深い愛情を示し、家族を守ろうとするようなところがある反面、他人にはそっけなく、警戒心を示すことがあります。
普段は落ち着いて穏やかであり、堂々と自信に満ちた様子は、どこか日本犬に近いものを感じさせます。
遺伝子的に古代犬グループの犬種は他のグループの犬種よりも飼い主に対する愛着行動の割合が低いため、独立心が高く、かまわれ過ぎるのを嫌う傾向があります。
それは知性が高いゆえんかもしれません。
シャー・ペイ【魅力】
シャー・ペイの魅力は何と言ってもシワシワの体と、顔に不釣(ふつ)り合いなつぶらな瞳(ひとみ)、そしてその表情。
呑気(のんき)に見えそうでいて実は活動的であり、家族を何よりも大好きになってくれるところなのではないでしょうか。
愛好家にとっては、“かわいいい”の一言でしょう。
シャー・ペイ【気をつける病気は?】
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気をつける病気①【シャー・ペイ自己炎症性疾患(SPAID)】
シャー・ペイの皺(しわ)の生成の原因となる遺伝子HAS2の突然変異は、この病気の発現にも関係しています。
シャー・ペイ自己炎症性疾患は、一つの病気を指すのではなく、「家族性シャー・ペイ熱(FSF)」「小胞性ヒアルロン酸症(旧病名:皮膚ムチン沈着症)」「関節炎」「中耳炎」「アミロイドーシス」といった複数の炎症性の病気が引き起こされている状態を言います。
FSFは発熱や関節(特に足首)の腫れなどが見られ、腎不全に移行することもあるそうで、人間の家族性地中海熱に似ていると言われます。
小胞性ヒアルロン酸症では、ムチン(粘液を構成する糖たんぱく質)による小胞や皮膚の隆起、過剰な皮膚のひだ、皮膚のべたつきなどが見られます。
【参照元】
・Cornell University, Animal Health Diagnostic Center「Shar-Pei Autoinflammatory Disease 」
・UPPSALA UNIVERSITET「A genetic test for Shar-pei autoinflammatory disease」
・Dr. Linda Tintle, Dedicated to the Health of Chinese Shar-Pei.「SHAR-PEI AUTOINFLAMMATORY DISEASE RISK TEST NOW AVAILABLE IN THE US」
・Mar Vista Animal Medical Center「SHAR PEI SPECIAL CONCERNS & CAUTIONS」
・UPEI UNIVERSITY of Prince Edward ISLAND, CIDD DATEBASE「Cutaneous mucinosis」
Ilya Barmin/ Shutterstock.com
気をつける病気②【皮膚トラブル】
シャー・ペイは皮膚が弱いことで知られており、アトピー性皮膚炎や毛包虫症、間擦疹(かんさつしん/皮膚のひだの摩擦によって起こる皮膚炎)など注意が必要です。
フケや皮膚の乾燥、または皮膚のべたつきが見られる脂漏症(しろうしょう)では、好発犬種の一つとしてシャー・ペイが挙げられています。
【参照元】一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム「皮膚病/脂漏症」
気をつける病気③【眼瞼内反症(がんけんないはんしょう)】
まぶたの淵(ふち)が内側(眼球側)に入り込んでしまい、過剰な涙、目やに、痛みなどが見られます。
結膜炎や角膜炎を起こし、重度になると潰瘍ができることもあります。
シャー・ペイ【病気になった場合、ペット保険は適用される?】
愛犬が病気や怪我をした時に、その治療費を補償してくれるのがペット保険ですが、どんな病気や怪我でも補償されるというわけではありません。
基本的に、
ペット保険の適用外①【予防にあたるもの】
例)狂犬病や各種感染症の予防ワクチン、フィラリア予防、マイクロチップ装着費用、健康診断費用
ペット保険の適用外②【病気にはあたらないと判断されるもの】
例)歯石除去、乳歯遺残、去勢・避妊手術、交配・出産関連、トリミング関連
ペット保険の適用外③【先天性の異常、遺伝性疾患、すでに罹(かか)っている病気】
例)膝蓋骨脱臼、股関節形成不全、進行性網膜萎縮症
ペット保険の適用外④【代替医療】
例)アロマセラピー、ホメオパシー、理学療法
などはペット保険の補償対象外となるのが一般的です。
また、本来は病気のくくりであっても、「鼠径(そけい)ヘルニア」「臍(さい)ヘルニア」「眼瞼(がんけん)内反・外反」「停留睾丸(ていりゅうこうがん)」なども補償対象外になることが多いです。
ただし、同じ病気であっても、A社では補償対象外であるのに対し、B社では”補償対象”となることもあり、ペット保険会社によって違いがあります。
加えて、加入できる年齢の制限や補償条件など各社各様なので、ペット保険の加入を考える時には、愛犬の健康リスクや年齢などを踏まえ、各ペット保険会社をよく比較検討して選ぶことをおすすめします。
さらには、犬のサイズが大きくなるほど、また年齢が高くなるほど、掛け金が高くなるのが一般的であり、継続加入しているうちに予想外の高額な掛け金になってしまうこともあるという点。
もう一つには、無条件で継続加入できるとは限らず、犬の健康状態によっては条件が付けられたり、継続できなかったりする場合もあるという点にも注意してペット保険をお選びください。
シャー・ペイ【飼い方(しつけ)・散歩の仕方・注意点!】
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シャー・ペイ【飼い方(しつけ)】
シャー・ペイは他の人や犬を受け入れにくいところがあり、状況によっては闘争心を見せることもあるので、早い時期からいろいろな“良い”体験をさせつつ「社会化」や「しつけ」に取り組みたいものです。
頑固で、自分で考えて行動するような面もあるシャー・ペイでは、しつけに根気が必要になることもあるでしょう。
参考までに、ペンシルバニア大学の研究によると、
望ましくない行動に対して犬を殴ったり蹴ったりする
犬にがみがみ言う
犬が咥(くわ)えている物を力ずくで取ろうとする
無理に犬のお腹を出させる(アルファ・ロール)
犬をじっと見つめる、または見下ろす
犬を無理に横にさせる(ドミナンス・ダウン)
犬の口吻を手で握って揺らす
など、
飼い主のこうした行為は”犬の攻撃性を引き出す”傾向にあるといいます。
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シャー・ペイは時に強い態度に出ることもあるので、攻撃性を引き出さないよう、飼い主さん自身の行動にも気をつけたいですね。
【参照元】Meghan E. Herron, Frances S. Shofer, Ilana R. Reisner「Survey of the use and outcome of confrontational and non-confrontational training methods in client-owned dogs showing undesired behaviors」(Applied Animal Behaviour Science, Volume 117, Issues 1–2, 2009, P47-54.)
シャー・ペイ【散歩の仕方】
散歩は1日2回、各30分~1時間程度を目安とし、時々は全身を使った運動をさせてあげられると理想的です。
ただし、子犬の時期の過度な運動は関節を傷めることがあるのでご注意ください。
運動不足はストレスとなり、行動の問題につながることがあるので、悪天候で散歩に出られない時などは、ボール遊びや嗅覚を使ったゲームなどを取り入れて、少しでもストレスを発散できるようにしてあげるといいでしょう。
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シャー・ペイ【注意点!】
他者が苦手な傾向にあるシャー・ペイでは、特に子供が一緒の場合、不慮の咬傷事故(こうしょうじこ)を防ぐためにも、決して犬と子供だけにしませんように。
咬傷事故は犬も人間も不幸になります。
子供は身長が低い分、頭部や首に致命傷になりかねない傷を負うことが多いので、シャー・ペイに限らず、どんなに人に慣れた犬であっても、子供がいる時には大人が監督するようにしてください。
シャー・ペイ【まとめ】
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シャー・ペイは世界一ユニークな犬とも言えます。
家族愛が強い犬種なだけに、自分だけに心を開いてくれるようなタイプの犬が好きな人にはたまらない魅力でしょう。
シャー・ペイと暮らしたら、次もシャー・ペイという人もいます。
「珍しいから飼う」のではなく、この犬種の良さを理解してともに暮らすのであれば、きっと一生の記憶に残るパートナーとなることでしょう。
*注意:犬は生き物であり、性格やサイズ、運動量、寿命など個体差があります。
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