【獣医師監修】犬の「歯垢」原因や症状は？歯垢と歯石の違いは？対処・治療法、治療費、予防対策！

犬の歯垢【原因は？】

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犬の歯垢（プラーク）とは、一言で言えば「細菌のかたまり」です。

デンタルケアが不十分であると、歯の表面が唾液由来の糖やタンパク質でできた薄い膜に覆われてしまいます。

この膜のことを、「ペリクル」と言います。

ペリクルは口の中に存在する連鎖球菌や桿菌（かんきん）などの細菌類を寄せ付けやすく、つまり、細菌にとってはいいエサになるわけですが、これらのペリクルに貼り付いた細菌類が定着および増殖することで「歯垢」が形成されるのです。

口の中には300～800種類の細菌が存在していると言われ、歯垢1g中の細菌の数はなんと約1億個。

歯垢を放置し、それがどんどん増えてしまうことを想像すると歯磨きの大切さがわかりますね。

【犬の歯周組織の構造】
歯垢のもとは、歯の表面にできたペリクルに貼り付いた細菌類。

犬の歯垢【症状】

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犬の歯垢の色はおおむね「白～薄い黄褐色」。

ネバネバしていて、触ると少しザラザラと感じることもあります。

色が薄い場合は、はっきりとはわからないこともあるでしょう。

歯垢ができる初期であれば症状らしいものは歯の色の変化くらいですが、歯周病へと移行していくにつれ、歯垢の色は徐々に濃くなり、歯肉の赤みが見られたり、歯肉溝（歯と歯肉との間）の深さが増して歯肉ポケットが形成されたりします。

犬の歯垢【歯石】との違いは？

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犬の歯垢を放置すると、細菌たちは自らを覆うバリアのような「バイオフィルム」と呼ばれるぬるぬるとした膜を作り出すようになります。

初期には歯磨きで落とせる程度の歯垢だったものが、この段階になると歯ブラシで落とすのも難しくなってきます。

やがて歯垢は唾液中のカルシウム（Ca）やリン（P）を取り込んで石灰化し、歯石へと変化してしまうのです。

その間、犬では3日～5日程度。

歯石ともなると石のように硬くて強固であり、落とすには専用の器具や処置などが必要になります。

したがって、歯周病を予防するなら、できるだけ初期の歯垢のうちに対処するのが一番良いということになります。

犬の歯垢【なりやすい犬種】

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以下のような犬は歯垢や歯石がつきやすい、つまり歯周病のリスクが高い傾向にあるので、日頃のデンタルケアを心がけましょう。

歯垢・歯石がつきやすい犬①【小型犬】

チワワやトイ・プードル、ポメラニアン、パピヨンなどの小型犬では乳歯遺残（にゅうしいざん：乳歯が抜けずに残ってしまうこと）が起こりやすく、乳歯を抜歯せずにそのままにした場合、乳歯と永久歯とが並んで生えることから歯並びが悪くなってしまいます。

また、小型犬は顎（あご）に対する歯のサイズは意外にも大きめであり、歯と歯の間が狭い傾向にあります。

以上の要因により、唾液による自浄作用（きれいにする働き）が狭いところに届きにくくなる結果、小型犬の歯は食べかすや汚れがたまりやすくなり、歯垢・歯石も付着しやすいのです。

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歯垢・歯石がつきやすい犬②【短頭種】

パグやシー・ズー、ペキニーズなどの短頭種は顎（あご）が短く、歯が生えるスペースに余裕がないことから歯と歯の間が狭くなっており、時に歯が重なり合うように生えていることもあります。

当然、歯に汚れがたまりやすく、殺菌効果をもつ唾液も歯間にまではわたりにくいため、歯垢・歯石が付着しやすくなっています。

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歯垢・歯石がつきやすい犬③【高齢犬（老犬・シニア犬）】

デンタルケアが十分ではない場合、加齢とともに歯垢・歯石が増加していきます。

歯石の上には歯垢がつきやすく、その歯垢は新たな歯石となってしまうので、これを繰り返すごとに歯は歯垢・歯石で埋め尽くされてしまいます。

そうなると愛犬の歯石を除去するのはなかなか大変です。

犬の歯垢【検査・治療法は？】

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犬の歯垢に関連する【検査】

歯磨きで落とせる程度の軽度な歯垢であればいいのですが、すでに歯周病へと移行している場合もあり、必要に応じて以下のような検査が行なわれます。

エキスプローラ（探針）という歯科用器具を用いて、犬の歯垢・歯石の付着度を確認する。この写真の場合は、重度の歯石の付着が見られる。

歯周プローブという器具では、犬の歯垢・歯石を除去した後、歯肉ポケットの深さを確認する。

愛犬に歯周病による口腔鼻腔瘻（こうくうびくうろう）などの疑いがあり、鼻腔内にも炎症が見られるような場合は、動物病院の設備によりけりですが、CT検査が使用されることもあります。

犬の歯周病【診断】

以下の歯周病評価項目のレベルを総合的に見て、愛犬の歯周病が軽度なのか、重度なのかなど判断されます。

根分岐部とは、犬の歯の根が分岐している分岐点のこと（赤丸部分）。歯周病の評価では、この紺分岐点がどの程度変化しているかも確認される。

また、犬の歯周病の評価では、アタッチメントロス（歯に付着する歯周組織の喪失のこと）がどの程度なのかも確認されます。

アメリカ獣医歯科学会（AVDC）ではアタッチメントロスから見た歯周病の進行度を4つのステージに分けている。

＊上の図の「歯肉ポケット」は「歯周ポケット」のことです。
【歯肉ポケット⇒歯周ポケット】

【アメリカ獣医歯科学会（AVDC）による歯周病のステージ分類】

犬の歯垢【治療】

犬の歯垢【軽度】な場合

歯磨きで落とせる程度の歯垢であるなら、治療の必要はありません。

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犬の歯垢【落とせない歯垢や歯石】がある場合

愛犬の歯の歯垢・歯石の除去（スケーリング）が必要です。

犬の歯石を取るには抜歯鉗子（ばっしかんし）を使う他、通常は超音波スケーラーや、細かい作業ではハンドスケーラー、愛犬の歯周病の程度により歯周ポケットの歯石取りにはキュレットなど、必要に応じて器具を使い分けます。

犬の歯垢・歯石の除去後は歯石の再付着を防ぐため、ポリッシングブラシおよびラバーカップという器具で歯の表面を研磨し、滑らかに仕上げをします。

同様に、愛犬の歯周病の程度により歯肉に隠れた歯の表面も滑らかにするルートプレーニングを行ないます。

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犬の歯垢【歯周病が重度に進行】している場合

犬の歯垢【治療薬・治療費（手術費用）】

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ごく軽度の歯垢で、歯肉の炎症もないようであれば、とりたてて薬は必要としません。

ただし、すでに歯肉炎を発症している場合は、初期の症状を軽減させる薬剤もあるので、気になるようであれば動物病院でご相談ください。

また、併せて歯石もできている場合には、早めに除去することをおすすめします。

公益社団法人 日本獣医師会「家庭飼育動物（犬・猫）の 診療料金実態調査及び飼育者意識調査調査結果（平成27年）」より作成

この他、他の検査や薬などが必要であれば、それらの費用など必要に応じて加算されます。

犬の歯垢・歯石【ペット保険の適用は？】

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ペット保険では、歯科治療全般が補償対象外になる場合や、歯周病は補償対象になるなど、ペット保険会社によって違いがあります。

基本的に、予防のための歯石除去や、抜歯、乳歯遺残（にゅうしいざい）、不正咬合（ふせいこうごう）などは補償対象外となります。

ただし、他の病気治療のために歯石除去や抜歯が必要な場合や、全身麻酔をして行なうものは手術と判断される場合など、本来は補償対象外とされているものでも補償対象になるケースもあるので、詳しくは加入している、もしくは加入を考えているペット保険会社にお問い合わせください。

犬の歯垢【食事・予防対策は？】

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犬の歯垢【食事】

一般的に愛犬の歯に歯垢があるからといって食事内容を変える必要はありませんが、歯垢歯石が付着しにくい療法食もおすすめです。

ドライフードなどを嫌がり、ウェットタイプの食事を好む場合は、歯周病が進行していることがありますので病院で診てもらい、歯周病の治療が必要になることがあります。

また、乳酸菌生産物質には歯周病菌の抑制効果があると考えられているので、乳酸菌を含む食品やサプリメントなどを与えるのもいいかもしれません。

参考資料：小野田繁「乳酸菌生産物質とは何か？ またその歯科応用について」（日本歯科東洋医学会誌 Vol.26, No.1・2 2007年 1-9）

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犬の歯垢【予防】

犬の歯垢予防【デンタルケアに心がける】

犬の歯の歯垢は早いうちに落とすのが一番。

犬の歯垢が歯石に変化するまで3日～5日程度なので、できれば毎日、少なくとも1日おきには歯磨きをしたいものです。

愛犬の歯磨きが無理な場合は、歯垢除去効果が期待できるおやつやおもちゃ、デンタルケア補助製品などを使い、少しでも落とす努力を。

ただし、おやつやおもちゃなど噛（か）むタイプの物は、噛むことに使う歯にしかほとんど効果は期待できません。

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犬の歯垢予防【こまめに歯のチェック】

愛犬の歯の歯垢を早いうちに落とすには、なるべく早めに歯垢を見つけること。

体は毎日チェックをしても口の中は意外に疎かになりがちなので、

歯垢・歯石が付いていないか

歯の色が変わっていないか

口臭はしないか

歯肉が赤くなったり、腫れていたりしないか

など、日々のお手入れのついでにチェックするようにしましょう。

子犬・老犬の歯垢【注意点・ケア方法は？】

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子犬の歯垢【注意点・ケア方法は？】

まだ子犬のうちは歯垢や歯石もそれほど付かないだろうと思うかもしれませんが、意外にそうでもありません。

たとえば、ヨークシャー・テリアを対象にした歯周病に関する研究では、生後37週齢（生後8ヶ月程度）の段階で98％の犬が初期の歯周炎をもっていたこと、そして、犬歯、次いで切歯は他の歯に比べてより歯周炎を起こしやすいことを報告しています。

ですから、デンタルケアは子犬のうちから始めたほうが良いということ。

口周りを触っても大丈夫なように慣らすことから始め、少しずつ歯磨きトレーニングにトライしてみましょう。

【参照元】Wallis C, Pesci I, Colyer A, Milella L, Southerden P, Holcombe LJ, Desforges N. 「A longitudinal assessment of periodontal disease in Yorkshire terriers：」（ BMC Vet Res. 2019 Jun 21;15(1):207. Doi: 10.1186/s12917-019-1923-8. PMID: 31226991; PMCID: PMC6588847.）

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老犬（高齢犬・シニア犬）の歯垢【注意点・ケア方法は？】

老犬では歯石がひどい状態になっているケースが目立ちますが、歯周病は他の病気にも悪影響を与えてしまうので、できるだけ若いうちに歯垢・歯石は除去しておくことをおすすめします。

昨今では状況によって老犬でも麻酔をかけて歯石除去ができる場合もあるので、愛犬の歯垢・歯石で悩むのであれば、歯科に強い動物病院でご相談ください。

また、歯垢除去ジェルやスプレー、水に溶かす液体タイプなどのデンタルケア製品を使用したい場合は、犬にとって危険な成分が入っていないかどうか、使用前に一度動物病院で確認してもらうといいでしょう。

犬の歯垢【間違いやすい病気】は？

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犬の歯垢と間違いやすい病気【歯の変色】

犬の歯垢と間違いやすいものがあるとすれば歯石ですが、歯の変色にも注意が必要でしょう。

色素の強い食べ物や生活用品を口にしたことによる色素沈着、細菌、歯髄の損傷や壊死、薬物の影響（テトラサイクリン系の抗生物質）、エナメル質形成不全などによって歯がピンク色や灰色、青、黄褐色、紫、黒などに変色することがあります。

犬の歯垢と間違いやすい病気【歯周病】

犬の歯垢・歯石の他、歯肉が赤い、歯肉が腫れている、歯がぐらついている、歯肉から膿（うみ）が出ているなどの症状も見られる場合は、歯周病（歯肉炎、歯周炎）や歯槽膿漏が疑われます。

犬の歯垢【まとめ】

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犬の歯の歯垢・歯石は自然に取れるものではありません。

したがって、対策としてはできるだけ予防をするか、積極的に歯垢・歯石を除去するかのどちらかでしょう。

歯磨きをし、早くに歯垢に気づき、対処できるほどに愛犬が歯周病になるリスクを軽減してあげることができます。

さぁ、今日からでも歯のチェックや歯磨きを始めてみませんか？