【獣医師監修】犬の食べ物アレルギーの原因や症状、種類は?アレルギー対策(食事)や検査、治療法は?
愛犬が皮膚を掻(か)いたり痒(かゆ)がっている場合、食物アレルギーが原因かもしれません。犬の食べ物(食物・フード)によるアレルギーの原因や種類をはじめ、アレルギー物質の検査方法や食物アレルギーの治療法などを知り、愛犬の食事管理と健康維持に役立てましょう!
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◆日本獣医生命科学大学 名誉教授
◆一般社団法人 日本ペット栄養学会 会長
◆日本内分泌研究会会長
◆一般社団法人 日本動物看護系大学協会会長
【資格】
◇獣医師
【経歴】
日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)卒業後大学に残り、馬、牛,小動物の消化器・内分泌・代謝性疾患の研究を行う。
1990年小動物栄養学に関する研修のためにアメリカオハイオ州立大学に留学。
2006年より日本獣医生命科学大学 ・獣医保健看護学科で動物看護師の教育に当たる。
教育:獣医内科学、獣医内分泌学、動物栄養学、動物臨床看護学など
研究:動物の代謝・内分泌学、栄養学
目次
犬の食べ物(食物・フード)アレルギーの原因や種類は?
damedeeso / PIXTA(ピクスタ)
犬の食物アレルギーは、食べ物に含まれるタンパク質に対して免疫システムが働くことで起こります。
食べたタンパク質を異物だと身体が認識すると、血液中の免疫グロブリンE(IgE)が反応してアレルギー症状が出現するのです。
何の食べ物でアレルギー症状を起こしやすいかは個体差があり、アレルギー反応を起こすタンパク質のことをアレルゲンと言います。
なお、日本では人間の原因物質(アレルゲン)は、第1位が鶏卵(けいらん)で、次いで乳製品、小麦となり、この3品目で全体の3分の2を占めます。
その他、エビやカニなどの甲殻類、キウイフルーツなどの果実、蕎麦(そば)などがアレルゲンとして挙げられます。
人間では、食物アレルギーの主な原因である特定原材料(卵、乳、小麦、蕎麦、ピーナッツ、エビ、カニ)および特定原材料に準ずるもの(アーモンド、あわび、イカ、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、クルミ、ごま、鮭(さけ)、鯖(さば)、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、桃、山芋、りんご、ゼラチン)は食品のパッケージなどに記載するように推奨されています。
犬の場合、食物アレルゲンについて海外の報告では、小麦、大豆、鶏肉(チキン)、鶏卵、羊肉(ラム)、牛肉、乳製品、卵、とうもろこしなどがあります。
日本のペットフードメーカーのペットラインの調査によると、第1位のアレルゲンが鶏肉(チキン)で、牛肉、小麦、豚肉、乳製品、とうもろこし、ラム肉、大豆、米と続きます。
国によって食習慣やドッグフードに使われている原材料が異なるため、このような結果が導き出されたと思われます。
あきち / PIXTA(ピクスタ)
愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(通称「ペットフード安全法」)が施行されて以来、すべての原材料をペットフードのパッケージなどに記載することが義務付けられています。
愛犬に食物アレルゲンがある場合、アレルゲンが含まれていないフードを選ぶこともむずかしくありません。
ドッグフードのパッケージに「無添加」「着色料や香科など化学的な食品添加物不使用」などと記載されていても、それでアレルギー反応が出にくくなるわけではないので注意しましょう。
犬の食べ物(食物・フード)アレルギーの症状や発症時間は?
おでか犬 / PIXTA(ピクスタ)
犬が食物アレルギーだと診断される場合、ほとんどのケースが皮膚症状です。
痒(かゆ)み症状、蕁麻疹(じんましん)、紅斑(こうはん)、湿疹(しっしん)を示し、その主な発症部位は耳介部、内股から下腹部にかけて、脇の下、鼻や眼の周囲です。
再発性の細菌性皮膚感染症、外耳炎(がいじえん)、アトピー性皮膚炎が併用して現れることも多いでしょう。
アレルギー症状の出る部位がアトピー性皮膚炎と似ていますが、食物アレルギーには季節性がなく、背中や眼の周囲、口の周辺に皮膚症状が出やすいと言われています。
また、食事性アレルギーの場合は、下痢や嘔吐といった消化器症状を示す場合もあります。
なお、人間では食事後の短時間に生じるアレルギーとして、皮膚症状や粘膜症状などの複数の臓器に症状が出たものをアナフィラキシーと呼び、呼吸器症状が出現するとアナフィラキシーショックと呼びます。
犬では食事に対するアレルギー症状は一般には皮膚や消化器に現れますが、まれにアナフィラキシーを、短時間で起こすケースもあります。
アナフィラキシーを起こしたことのある食材、アレルギーを示す食事は少量でも食べないようにしましょう。
食べ物(食物・フード)アレルギーを発症しやすい犬種は?
MirasPictures / PIXTA(ピクスタ)
人間同様、アレルギー体質は遺伝的な素因によると考えられます。
食物アレルギーを起こしやすい犬種としては、ラブラドール・レトリーバー、コッカースパニエル、ゴールデン・レトリーバー、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリアが多いとの報告されています(Olivry 2019)。
発症は比較的若い年齢で起こるとされ、報告の平均年齢としては2.9歳(Olivry 2019)で、3歳未満(Rosser 1993)が多いと報告されています。
犬の食べ物(食物・フード)アレルギーの検査(費用)・治療方法は?
Syda Productions / PIXTA(ピクスタ)
愛犬に食物アレルギーが疑われる場合、検査や治療はどのように進めればよいのでしょうか?
犬の食物アレルギー【検査方法】
アレルギー検査①【問診】
Burdun / PIXTA(ピクスタ)
食物アレルギーを疑って動物病院を受診したら、まずは、愛犬がどのような種類のタンパク質を食べているかを問診されるでしょう。
愛犬がふだん口にしているフードや食材の把握は、大変重要だからです。
現在は、ドッグフードの材料は含有量が少なくても記載されています。
そのため、食べているもののリストアップは困難ではありません。
おやつや、家族全員が与えているものもきちんとリストアップする必要があります。
ごく少量のおやつやふりかけでもアレルゲンになる危険性は少なくありません。
アレルギー検査②【血液検査】
parinyabinsuk / PIXTA(ピクスタ)
血液検査で原因となる食物抗原を特定する検査方法もあります。
血液検査にも2種類あります。
ひとつはIgE抗体を測定する検査、もうひとつはリンパ球の反応をみる検査です。
犬の食物アレルギーの場合、IgEによって引き起こされるアレルギーは約3割、リンパ球によって引き起こされるアレルギーが約7割と言われおり、両方の検査を行わなければ的確な食物の選択はできません。
これらの検査で反応したアレルゲンを取り除き、反応がなかったものを使ったフードを選んだり手作り食として与えることで、食物アレルギーを発症せずに済むでしょう。
血液検査の費用は、動物病院により異なりますが、IgE抗体検査で20,000~40,000円、リンパ球検査も行うと合計40,000~70,000円ほどのところが多いようです。
アレルギー検査③【除去食試験および誘発試験】
FamVeld / PIXTA(ピクスタ)
「除去食試験および誘発試験」とは、食べ物を愛犬に一定期間与えて、その様子を観察していく検査法です。
アレルゲンと思われるタンパク質を除いた除去食(今まで食べたことのないタンパク質で作られたフード)を4~8週間与えて、症状の改善が見られた場合は食事性アレルギーと考えられます。
確認には、アレルゲンと思われるタンパク質の入った食事に戻して症状が再現するかを確認する必要もあります。
犬の食物アレルギー【治療方法】
MERIANA / PIXTA(ピクスタ)
犬が食物アレルギーだと診断されたら、アレルゲンではないと確認されたタンパク質で構成されている食事を与える治療(食事療法)は欠かせません。
アレルギーに対する療法食としては、2種類の低アレルギー食が一般的です。
これらの療法食は、かゆみに効く食べ物とも言えるでしょう。
犬のアレルギー治療法①【新奇タンパク質食】
食物アレルギーのある犬が未経験のタンパク質(新奇タンパク質)で構成されるドッグフードを用います。
新奇タンパク質としては、ダック(アヒル)、ターキー、カンガルー、鹿、七面鳥、ダチョウ、コオロギなどで構成されたフードが販売されています。
以前は魚(サーモン)、馬肉、鹿肉、ラム肉も使用されていましたが、それらのタンパク質に対してのアレルギーも発生してきたため、さらに新しい「新奇タンパク質」を含む療法食が開発されています。
犬のアレルギー治療法②【分解タンパク質食】
フード中のタンパク質を、アレルギー反応を誘発しない状態まで加水分解したものです。
そのタンパク質を主なタンパク源として、犬に与えます。
製造が容易ではなく、タンパク質が分解されていると嗜好性(しこうせい)が低いというデメリットがありますが、新たなアレルギー反応は起こりにくい療法食です。
アレルギーのある犬の食事(手作り)は?
nozomin / PIXTA(ピクスタ)
愛犬に食物アレルギーがある場合、手作り食でもアレルゲンとなる食材を除去することが重要です。
まずは、アレルゲンタンパク質と非アレルゲンタンパク質を、獣医師による診察と検査で特定し、アレルゲンではないタンパク質で構成したレシピを作ってあげましょう。
また、非アレルゲンタンパク質ばかり継続して与えず、新しい「新奇タンパク質」を取り入れながら手作り食を作って与えることも大切です。
【参照元】『小動物の臨床栄養学 第5版』(マーク・モリース研究所発行、監訳:岩﨑利郎、辻本元)2014年インターズー
犬の食べ物(食物・フード)アレルギーの予防対策!
hikapi / PIXTA(ピクスタ)
愛犬のアレルギー体質そのものを治療するのは、ほぼ不可能です。
食事性アレルギーは季節性がなく一年中発生するのを特徴としますが、花粉をアレルゲンに持つ犬では、アレルギー反応を起こす花粉が飛散する時期には抵抗力が弱まるため、食事性アレルギーも出やすい傾向があると言われています。
食物アレルギーだからと食事だけにフォーカスせず、愛犬の飼育環境を衛生的に保ち、ダニ、カビ、ハウスダスト、花粉といった環境からのアレルゲンに可能な限りさらされないようにしてあげましょう。
それが、食べ物をはじめアレルギー反応で起こる痒みのストレスから愛犬を救ってあげることにもつながります。
犬の食べ物(食物・フード)アレルギー【まとめ】
dmitry16 / PIXTA(ピクスタ)
犬の食物アレルギーは、皮膚に症状が出ることが知られています。
飼い主さんの独自の判断ではなく、愛犬が食物アレルギーかもしれないと思ったら、早めに動物病院を受診しましょう。
複数の検査を行ってアレルゲンが特定できたら、食事療法などで治療を行います。
愛犬の健康を守ることができるのは飼い主だけです。
正しい知識を持って、毎日の愛犬の生活に役立ててくださいね。
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